公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

天使の忘れ物

ゴミの不法投棄で逮捕者が出たニュースを定期的に見る。
路上には出し方のルールを守らずに放置されたゴミがある。
そういうのを見るたびに、こういうアホはずっと回収されずに置いてあるゴミを見て心が痛まないのだろうかと思う。
まあその程度で揺らぐメンタルなど持っていないのだろうが。
あいつらにとってみればルールを守っていようがいなかろうが手元から離れた時点で作業は完了しているのだ。
アホの存在が構造を歪めて規制を厳しくしていくので、真面目に生活している人からすれば本当に迷惑なゴミ以下の存在である。


先日、マンションのエレベーターに乗っていたときのこと。
内部の壁面にはフェルト生地の布が張られている、フェルトに匂いが染み込むとエレベーター内部がクサくなるタイプのやつだ。
帰宅してエレベーターに乗り込み、ぼーっと壁面を眺めているとある物に気が付いた。


フェルトの表面に黄土色をした小さい物体がへばりついている。
お米2粒分くらいの大きさで、表面の質感から察するに柔らかそうな感触をしている。
目の高さより少し下くらいの位置にあり、注意しないと見つからないが決して存在感が薄いわけでもない。
最初、ゴムか何かが溶けてくっついているのかと思ったが、顔を近づけてみてピンときた。
これはどうみてもデカめのはなくそである。


鼻の穴各方面から少しずつ集めてこの大きさにまで育て上げたのか、生息していたヌシを死闘の末に釣り上げたのかは定かではないが、ほじっていた者の気持ちは理解できる。
これだけの大物、ティッシュにくるんで捨てるにはさすがに惜しいだろう。
小学生であればイートインするところだが、いい大人がはなくそを主食にするわけにはいかない。
はなくその所持者は迷った結果、エレベーターの壁面に擦り付けていったのだ。
部屋で保管しておかなかったのは、大物をより多くの人に見てもらいたかったのだろう。
釣り人が魚拓を取るようなものだ。
あんな巨大なはなくそは見たことがないので、アピールとしては大成功だと思う。


しかし、大物のはなくそを発掘したときのテンションが永久に続くわけではない。
指先に感じた確かな重みに充足感を覚え、他人と喜びを共有しようとはなくそをエレベーター内に展示したものの、ふと冷静になることもある。
疲れて帰ってきたとき、恋人と一緒にエレベーターに乗っているとき、自分の掘り出したはなくそが壁にへばりついているのを見て何も感じないのだろうか。
ちょっとでも恥じる気持ちがあればとっくに撤去しているとは思うけれども。
よっぽどはなくそを見てほしいか、特に何にも考えてないかのどちらかだろう。


大学時代の友人に男前のやつがいるのだが、そいつは頑なに「はなくそを食べたことなどない」と主張するやつだった。
そんな人間が存在するわけがない、小学生のときなんか毎日食べてたろうがといくら言っても一切認めない。
男前だからといってとっつきにくいわけではなく、むしろみんなから愛されていたやつだったのだが、はなくその件に関しては最後まで相容れることはなかった。
人間、超えてはいけないラインやこだわりみたいなものはあると思うけれど、彼の場合ははなくそ飲食経験を認めることだったのだろう。