公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

営業に告ぐ

昔誰かが「縁は人が運んでくる」的なことを言っていて心に残っている。
どんな文脈でどういうシチュエーションで聞いたのかさっぱりだが、ぼくの現在を俯瞰すると誰かのおかげで成しえたことが多いので納得せざるを得ない。
「情けは人のためならず」という感じで解釈しているが、とりあえず他人には親切にしておいて悪いことはない。
ただのお人よしだと悪意のあるやつにつけこまれる可能性もあるので、親切かつ冷静に行動したいところだ。
ぼくが思い描く理想の自分は誰にでも親切で思いやりに溢れた人間なので、その通りになるよう行動したいところだが現実は理想通りにいかないことのほうが多い。


事務所にいるとしょっちゅう営業の電話がかかってくる。
今の職場はぼくと友人だけで、友人が代表を務めているので電話にはぼくが出ることがほとんどだ。
大体は友人への要件なので取り次ぐことが多いが、営業の場合はぼくで止めておく。
じゃあまた日を改めて電話しますと素直に引き下がればいいのだが、いつ頃なら手が空いているか聞いてくるとか、ぼく相手に営業を始める業者もいる。
長くなりそうな場合は「こちらから折り返しましょうか」と提案したり、「ご用件をお伺いしてもよろしいですか」などと聞くとあっさり退くことが多い。
彼らも仕事なので仕方ないだろうが、つまらん電話に時間を割くほどこちらも暇ではない。
今までこの手法で営業電話を撃退してきたのだが、こないだ少々イラっとすることがあった。


ある日、某マンションディベロッパーから電話がかかってきた。
(以下「P」とする。)
Pからの電話は問答無用で取り次がないのはぼくと友人の共通認識なので、この日もいつものように代表は不在であることを伝えて要件を聞いた。
するとPの営業担当はぼくの「ご用件をお伺いしてもよろしいですか」の「よ」くらいで喰い気味に「営業です」と端的に伝えてきたのである。
こちらが喋っている途中なのに割り込んできたことに加え、濃いめのネイビーのスーツを着てツーブロックの髪形をして、コミュニケーション能力とバイタリティと飲み会だけで乗り切ってきたであろう、ぼくの嫌いなタイプの営業が頭に浮かんだので二重に腹が立った。
素直に営業だと伝える姿勢は評価できるが、伝え方と本人のキャラクターに大いに問題がある案件だと言える。(後者は単にぼくの好き嫌いだが)
ぼくの機嫌を損ねてしまったPからの電話は、かけてきたのが誰であれ今後一生取り次ぐことはない。


また、以前にもブログに書いたことがあるが、自宅にやってくる光回線の訪問営業もうっとおしい。
基本的にアポなしの訪問には出ないことにしているが、魔が差してしまったり、もしかしたら宅急便かもしれないと思ったりして応答してしまうことがある。
これで宅急便だったことは過去一度もないのでやはりアポなし訪問は無視するに限るのだが、こないだもついつい出てしまった。
以前の光回線の訪問パターンとしては、あたかもマンションの設備を担当している業者を装ってオートロックを開けさせようとするものだ。
インターネット回線はマンション設備なのでもちろん嘘ではないのだが、「こちらのマンション設備を担当している○○です」と言われれば、ガスや電気・エレベーターなどと勘違いしかねない。
ぼくも性格が悪いので「設備ってなんですか?」と白々しく聞くことにしており、そこでようやくインターネット回線であることを認めるのだ。
最近はその営業手法が不評だと気付いたのか、初っ端から「インターネット回線の担当」だと名乗ることにしているようだ。


ただ、名乗りを変えたところで営業を受け入れる道理はない。
いつも彼らは「回線の工事が終了しまして、変更点をお伝えしたいので玄関先でのご対応をお願いします」と半ば脅迫的にオートロックを開けさせようとしてくる。
なんでお前らにイニシアティブを取られないかんのかと毎回疑問に思うのだが、努めて冷静に「回線の変更は考えていないので結構です」と伝えることにしている。
すると、今まで猫なで声でインターホンの向こうで喋っていた営業の態度が一変し「あ、分かりました」とだけ言って会話を終了するのだ。
うちのインターホンにはディスプレイがなく声だけなのだが、今までニコニコ顔の仮面を張り付けていた営業が一瞬で能面のような顔になるのが想像できる。
酷いときには、こちらが断りの文言を喋っている途中に遮るようにあちらから終わらせようとすることもある。


あのさ、営業が空振りに終わってイラっとするのは分かるけどそんな態度されたらこっちだっていい気分にはならんわけよ。
「ありがとうございました」すらないのは人としてどうなんよ。(実際、光回線の営業がお礼を言うことは少ない)
そっちの提案を飲む気はないけど、せめて君を嫌な気分にさせまいと丁重にお断りしてるんじゃないか。
こっちとしては営業であると分かった瞬間にガチャ切りしてもいいし、暴言を吐く選択肢だってあった。
でもそんなことしたって君はいたたまれないだけだし、後から何であんなこと言ったんだろって自分だって自己嫌悪になるわ。
訪問営業ってしんどいだろうしやりたくない仕事かもしれんけどさ、自分の願望が叶わなかったからって機嫌悪くなるとか子供じゃないんだから。
非礼には非礼を以て応えてもいいけど、礼には礼で返そうよ。


世の中には営業のノウハウが溢れているが、「相手の話を遮らない」「断られたからと言って機嫌悪くならない」というマニュアルはないのだろうか。
事務所に電話してくるPにしても、自宅を訪ねてくる光回線の営業にしても、自分が会社の看板を背負ってるという自覚がいまいち薄いと思う。
直接会っていない段階の営業では個人との紐づきが弱いので、そいつと会話をして抱いたイメージは個人の印象より会社の印象に帰結する。
そいつの態度が悪かった場合、その後同じ会社の違うやつが電話なり訪問なりしてきたとしても、「あの態度の悪い営業の会社ね」と思われて門前払いされるかもしれないのだ。
結果的に会社の利益を逃しており、自分の首を自分で絞めていることになる。
事実、ぼくは今後Pからの電話は決して取り次がないし、光回線の営業も確実に断る。
相手を嫌な気分にさせたくないし、自己嫌悪に陥りたくないので速攻で電話を切ったりキレたりすることはせず、大人としての対応は今まで通り心がけるだろうが。


電話の対応に好感が持てたので、事務所に来てもらって話を聞いた営業さんもいる。
うちには必要のないサービスだったので成約にはつながらなかったが、(相手の許可を得て)その営業さんは同業者に紹介した。
誰にでも愛想よくするのはしんどいこともあるし、自分が親切にしても相手が応えてくれるとは限らない。
でも、優しい自分でいたいと思うのならなりたい自分を演じて生活したほうが気持ちいいし、理想に近づくための具体的な行動にもなる。
ついつい見返りを求めて人に優しくしてしまうこともあるかもしれないが、もし何もリターンがなかったとしても、優しい自分でいることで自分が気分よく過ごせるのならそれで充分ではないか。
このマインドは万能ではないので、男前のつもりで過ごしても実際に顔が変わるわけではないし、Hカップになったつもりで過ごしても本当に肩が凝るわけではない。