公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

VS チンポ騎士団長

前回の記事で更新はサボっていたけれどブログのネタは書き溜めていたという話をしたが、話題には鮮度と熱というものがある。
記事のメモを読み返してみると、冷静に考えればにブログにするほどでもないなということだったり、当時は憤慨していたけれど怒りが風化してそのときのテンションで書けなくなった記事だったりがあった。
そんな中、今日の話題はメモに起こした当時と同じ温度で綴ることのできる内容だ。


昨年の衆院選だか参院選だかの頃。
ぼくはモーニング娘。世代なので、【選挙の日ってうちじゃなぜか 投票行って外食するんだ】の精神で生きている。
ずっと前から気になっていたコーヒー屋さんが投票会場の近くにあることを思い出し、さっそく向かうことにした。


お店は決して広くはないものの、おしゃれな外観と内装だった。
先に注文してから席に着くタイプのお店で、カウンター内にはオーナーと思われる女性がひとりでいた。
到着した際にはちょうど男性客が注文をしているところで、親しげにお店のお姉さんと会話していたので常連なのだろう。
待っている最中、その男性客の向こう側、お店の奥にひとりの男性が座っていたのに気が付いた。
年齢は40代くらいで、ヒゲを生やしたがっしりとした体つきなのだが威圧感のある印象ではなかった。
彼は明らかに座席ではないところに座っており(後から気づいたのだが二階へ続く階段だったようだ)、注文している男性客やぼくのことをじろじろ見ている。
店の人かとも思ったのだが、特に声掛けもないのでお客さんなのだろう。


妙なおっさんを気にしつつも、自分の分を注文して座席についた。
壁に向かって設置された席だったので、お店のカウンターやヒゲのおっさんには背を向ける形になる。
そうこうしているうち、数人の女性客が入ってきた。
初見のお客さんのようで、おススメのコーヒーなどをお店のお姉さんに聞いていたのだが、会話の中で「表にいた男の人はお店の人ですか?」とひとりの女性が聞いていた。
ふと後ろを見ると階段に座っていたヒゲがいなくなっており、お店の外に突っ立っている。
お姉さんは「あの人は常連さんでほぼ毎日来てくれるんですよー」と回答していた。
あははそうなんですか、お店の紹介してくれてたのでスタッフさんかと思いました的な応答があり、女性客の集団は二階に上がっていったようである。


そのうち、ぼくの斜め後ろにいた一組のお客さんが帰っていった。
するといつの間にか店内に戻ってきたヒゲが何を思ったか、「食器下げますよ」と言い出して置かれた食器を片付け始めたのである。
どうもよくあるやりとりのようで、お店のお姉さんは「いつもありがとうございますー」と感謝を述べていた。


ここまでのやり取りを観察して、そしてここまで読んでくれた人なら分かるだろうが、ヒゲはお店のお姉さんに恋をしているのだろう。
お姉さんは化粧っ気こそないものの童顔のかわいらしい顔立ちをしており、愛想もよく素敵な人であった。
ヒゲが毎日来ているというのも大袈裟ではないのだろう。
ひとりでも多くのお客さんが入れるよう、本来の座席ではない階段に座っていたのだ。
また、階段席は他のどの席よりもお姉さんに近い位置にいられることもポイントとなる。
女性客の集団が来るやいなや外に出たのも、客の人数的に二階席に案内することを理解しているからこそ、動線を空ける意味でそこから離れたのだろう。
帰っていったお客さんの食器を下げる作業も澱みなく流れるようなオペレーションであったことから、普段からやっていると思われる。


お姉さんは食器を下げてくれたヒゲに対して「うちの常連さんは優しい人ばかりで助かる」というような発言をしていたのだが、心からの優しさで動いている男性の常連客が果たして何人いるだろうか。
お店の人が男性だった場合、同じように親切にするだろうか。
金玉の命ずるままに動いていないと断言できるだろうか。
少なくともヒゲはあわよくばお姉さんのコーヒー豆を収穫*1しようと虎視眈々と狙っていることだろう。
そしておそらくだがお姉さんもヒゲを始めとする常連男性たちの好意には気づいており、体よく利用して承認欲求を満たしているに違いない。
女性店主のコーヒー屋さんって決して多くないから、普段から姫扱いされるのには慣れているだろう。
客の気持ちを適当にあしらいつつ、夜な夜な粗暴かつ男前の彼氏にコーヒー豆を摘ままれたり彼氏のミルクを飲んだりしているのだ。


思えば、先に注文していた男性やぼくのことをじろじろ見ていたのも、お姉さんに悪い虫がつかないよう睨みをきかせていたのだろう。
そしてお店にもいい印象を持ってもらえるように動いている。
自分が君のことを守るよというスタンスなのかもしれないが、守っている側にも性欲はあるので、守ったあとにセックスしたいと思っている。
こういう人のことを【チンポ騎士団】と言うらしいが、あの店にはどれだけの騎士団員がいるのだろうか。
コーヒーはおいしかったものの、ぼくの中であのお店はチンポ騎士団の集う店という位置づけになってしまったので、再訪の際には団員のことが気になって仕方ないと思う。


昨年の6月頃だと思うが、大阪で殺人事件があった。
被害者はカラオケパブを経営している20代半ばくらいの女性で、容疑者として逮捕されたのはお店の常連である男性だった。
報道によると男性は被害者の女性に好意を抱いており、ほぼ毎日お店に通っていたとのこと。
そればかりか、女性が自分を接客しないと激高したり、頻繁に他のお客さんとトラブルになったりと厄介な客だったようだ。
お客さんに自分のことを好きになってもらう、今風に言えばガチ恋営業】はよくある手法だけれど、こんなニュースがあればガチ恋営業を仕掛けている側も戦々恐々ではないだろうか。
そうした営業手法が悪であるとは思わないけれど、少なくともコーヒー屋さんには求めていないのである。


ぼくには長らく通っているケーキ屋さんがあり、オーナーさんは女性なのだが、決して下心で通っているわけではない。
あちらもぼくのことを認識してくれているのだが、そこのロールケーキがとにかくおいしいので定期的に通っているだけなのだ。
もしもそこのオーナーが男性であったとしても、腕毛がボーボーであったとしても、変わらず訪れるのは間違いない。
とはいえ、女性オーナーから「あのお客さんもあわよくば私のスポンジに生クリームをかけたいと思っているのかしら」と思われていたらかなわん。

*1:ハーベスト