公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

私の頭の中のババア

鬼滅の刃の良いところは、「キャラクターが勝手に動いている」と感じるところだと思う。
作者の主義主張をキャラクターに言わせるタイプの説教臭い漫画って割とあるが、そういうのが読みたいときもあれば読みたくないときもある。
ただ、少なくとも週刊少年ジャンプに掲載されているような作品では説教漫画は読みたくない。
HUNRER×HUNTERの作者が、「魅力的なキャラを作ればあとは勝手に動いてくれる」というようなことを言っていた気がするが、鬼滅に関しては当てはまっているように思う。
SNSなんかでも極端な主張をする人物を登場させて通り魔的に論破する漫画をよく見るが、ああいうのもなんか作者の鬱屈とした感情や満たされない現実を勝手に想像していたたまれなくなる。


先日、とあるエッセイを読んだ。
料理の好きな女性が毎日食べたものや作った料理を思い出と共に綴った本で、プロフィールによると執筆時は大学生だったらしい。
大手ではない出版社から刊行されており見慣れない装丁だっため、何の気なしに手に取ってみた。
立ち読みしてみて言葉選びが面白いなと思って購入したのだが、自宅でじっくり読んでいると耳元で不快な音がずっと響いているような感覚に陥った。
感想を一言で述べるなら「若い女性特有の万能感や自信が鼻につく作品だった」となるだろうか。


作者が主張しているタイプの芸術作品は嫌いではない。
ハッキリと自己紹介をしたわけではないのに、作品を通して製作者のメッセージを伝えるなんて素晴らしいと思う。
芸術家の中には、「簡単に自分の考えを読み取られてたまるか」「メッセージなんてめんどくさいこといちいち斟酌してくれなくていい」と思っている人もいるだろうが、まあそれはそれで。
美術関係の展覧会は見に行くこともあるが絵画や彫刻に関する知見がないので、作者の人物像に思いを馳せるだけの境地には至っていない。
ただ、文学や歌詞などの文字としてインプットするタイプの作品であれば頭に入りやすいので、作者の人となりを想像しやすい。


例えば、女性の作家で【西加奈子】という人がいる。
この人は女性を主人公にした小説が多く、女性特有の激しさや感情の振れ幅(毎月の生理的なものも含めて)を表現するのがとても上手い。
人によっては不快に感じることも多いかもしれないが、女性作家が書く女性の一人称なだけに、フィクションとはいえ真に迫った女性の心理描写ができていると思う。
また、ぼくは昔から椎名林檎をよく聞いているのだが、女性の情念がバシバシ感じられる彼女の歌が好きだ。
代表曲である【ここでキスして】なんかはラブソングの定番のように言われているが、ぼくはあの歌を聞くと髪の長い女に遠くからねっとりと見つめられている気持ちになる。
男性には男性の、女性には女性にしか表現できない世界観があるので、作者の性別によって接する作品を分けてしまうのはもったいない。
鬼滅の刃だって作者は女性だし、作中には女性作家特有の変なノリとテンションも感じられるが、それも含めて作品である。


しかし、上記したエッセイに関してはどうにも受け付けなかった。
学生や若い人が主役の小説は読んだことも、今でも読むこともある。
自分にもこんなときがあったなあと過去に思いを馳せたり、こんなやついるわけないと思ったり、主役の年齢設定が自分と異なるものであっても楽しく読むことができる。
当時は噛み砕いて表現できなかった少年の気持ちも、今なら過去の自分と照らし合わせて理解することができるのだ。
ライ麦畑でつかまえて】の主人公・ホールデンくんなんか、いい感じにこじらせていて微笑ましいくらいだ。
主人公が自分より年下の作品を受け付けない体質であれば、年を取れば取るほど接することのできる作品が少なくなってしまう。
子供のとき、大人のとき、それぞれで感じ方が違ってくる作品は素敵である。


そんなぼくが今回のエッセイを受け付けなかったのはどういうことだろう。
エッセイというノンフィクションの形態を取っている作品のため、むき出しになっている作者の"生(なま)"に引いてしまったのだろうか。
作中では友人付き合いや失恋についても触れられていたが、夜な夜な乱交パーティをしているとか、棒状の野菜をあんな穴やこんな穴に突っ込んだとかいう描写があったわけではないのに。
若い女性にあまりにも相手にされないものだから、「女子」を謳歌している女子に対して恨みや偏見が蓄積しているのだろうか。
あまりにも気に入らなかったので本は手放した。
自分はそこそこひねくれていて偏見まみれの人間だと思っていたが、まだまだこんな鬱屈とした感情が潜んでいたとは。
やはり読書とは己と向き合ういい機会だ。
でも正直、若い女性に嫉妬している年増女のような自分の内面など認めたくないので、誰かこじつけでもいいのでこの感情を分析してぼくを安心させてほしい。


ところで、アニメや今のブームで知った人はともかく、鬼滅の刃で騒いでいる人の何割かはジャンプ連載中は読み飛ばしていただろう。
アニメ化までは掲載順も中位の作品だったし、ジャンプを代表する作品のひとつでなかったことは明らかだ。
ぼくは特に鬼滅ファンではないけれど、連載当初からのファンは複雑な気持ちだろう。
とりあえず破壊神マグちゃんは連載を継続してほしいので、ジャンプ編集部さんどうぞよろしく。