公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

人としてのまろやかさ

いつもコーヒー豆を買っているお店がある。


そこは結構な種類の豆を揃えていて、しかも自分の好みの度合いで焙煎してくれる。


店員さんの知識も豊富でアドバイスが頼りになるため、気に入って頻繁に通っている店だ。


先日もそこで豆を選んでいると、一人のお客さんが入ってきた。


細身で背が高く、男前のお兄ちゃんだった。


そのお兄ちゃんが店員さんに語るところによると、知り合いがコーヒー好きなので、豆をプレゼントしようと思って買いに来たとのことだった。


店員さんが予算を聞いたところ、一万円くらいで見繕ってもらえればと言っていた。


その店には100グラムあたり1000円くらいまでの豆がほとんどだが、希少な品種も扱っていて、3000円からという価格帯のものもある。


なので一万円あればたくさんの種類を購入することもできるし、高価格のものを何個か購入することもできる。


このお兄ちゃんは男前な上に、コーヒー豆を一万円分も人のために選ぶことのできる心の美しい人なのだ。


ここまで完璧だと気が引けてしまうし、ともすれば相手に劣等感を与えかねないので、何かしらの欠点があったほうが人間としては深みが出ると思うのだがどうだろうか。


口臭がドブのにおいだとか、家ではトイレに行くのが面倒でペットボトルに用を足すのが習慣だとか、それくらいのマイナスがあるとバランスが取れてコクが増してくるものだ。


人間もコーヒーも、どこかに癖があったほうが味わい深くて親しみが湧いてくる。


隙のある女性がモテるって言われるのと同じようなもので、しっかりしすぎていて『あなたは一人でも生きていける人だと思う』って言われたら何となくショックな感じがするあれだ。


真面目なのは素敵だけど、相手にとって必要な真面目さかどうかはまた別の話だったりする。


別にあのお兄ちゃんに何か思うところがあるわけではなく、むしろ見習うべきところが多いなと思った話。