公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

後ろを向きすぎて後ろが前みたいになっている

別に嫌なことがあったわけではないが、最近は「朝起きたら、のだめのときの玉木宏になってないかな」と思いながら寝ている。
せめて声だけでもあの魅惑の低音ボイスにならないものだろうか。
男性でも女性でも、容姿が優れている人間はメリットだけでなく、その人なりの悩みがあるとは思う。
でも、その悩みを持たざるものが理解することはできないし、人は見た目じゃないと言いつつも、誰もが振り返るような美貌を有してみたいと思うのだ。


先日、とある有名セレクトショップに行ってきた。
普段は行かないのだが、ちょっと見たいものがあったので伺ったのだ。
仕事場でコーヒーを飲む用のマグカップを探しており、大きなセレクトショップであれば素敵な食器の取り扱いもあるかと思ったのである。
案の定、なかなかイカしたマグカップが揃っており、決断を迷わせるラインナップにテンションが上がっていた。
すると、ひとりの店員さんがぼくに近づいてきて商品の説明をし始めた。


ぼくはどちらかと言えば店員さんに接客してもらっていろいろ喋りたいタイプの人間なので、ありがたく説明を聞くことにした。
マスクで顔が半分隠れていたので定かではないが、20代前半から半ばくらいの女性の店員さんである。
名札には【研修中】のシールが貼られており、新人であることを伺わせた。
コーヒーを飲む用のカップを探していることを伝えると「もしかして"これ"で飲んでるんですか?」と、店員さんは手動のコーヒーミルを挽くジェスチャーをした。
豆から挽いて飲んでいるのかということが聞きたかったのだろう。
ミルで豆を挽いて飲むのは自宅だけで、職場ではインスタントコーヒーを飲んでいるのだが、店員さんの仕草がかわいかったので見栄を張って「そうですね」と答えた。


すると、店員さんは「私も今、自分でコーヒーを淹れてみたいと思ってるんです」と切り出し、それをきっかけにコーヒー談義で盛り上がった。
どんなコーヒーミルがいいか、器具は何から揃えたらいいか、おすすめのコーヒー屋さんはあるかなどなど、いろいろと質問をされ、ぼくが逐一答える形で会話は進んでいく。
若い子に上から目線でいろいろ啓蒙してやろうという厄介なおっさんにならないように、あくまでも謙虚にテンションを抑えつつ、聞かれたことに丁寧に答えることを心がけ、時間は経つのであった。


さて、ここで問題だ。
このかわいらしい女性店員さんと話しているときのぼくの心情はどのようなものだろうか。

「この子がこれをきっかけにコーヒーにハマってくれたら嬉しい」

違う。

「よかったらお姉さんの胸の先っぽに付いているコーヒー豆もテイスティングしましょうか?」

それも違う。

正解は、
「今、自分は店員さんから気持ち悪いと思われていないだろうか」
である。


ぼくは超ド級のネガティブ野郎なので、他人と会話が盛り上がっている最中であろうと常に卑屈なのだ。
他人を不快な気持ちにさせたくないのはもちろんだが、やはり我が身が一番かわいいので、"自分が変に思われていないか"をとにかく気にする。
しかも間の悪いことに、そのときは平日であり仕事用の服装だった。
ぼくは自分のファッションには自信を持っているが、それはある意味コンプレックスの現れだったりする。
気に入った洋服を身に着けることで、自信と自尊心を保ち、ネガティブなことから身を守っているのだ。
逆に言えば、服装がバシッと決まっていないときは顔が濡れたアンパンマンの如く、気合いが入らないネガティブフニャチン野郎になる。
仕事のときはスラックスにシャツと革靴というベーシックなスタイルなのだが、私服ほど時間とお金と美意識をかけて選んでいない。
もちろん自分なりのこだわりを持ってセレクトしてはいるのだが、私服に比べるとテンションの上り幅は圧倒的に劣る。


他にも、お店の閉店時間は大丈夫かなとか、こんなに話し込んでてこの店員さん後で怒られないかなとも考えていたが、おまけのおまけくらいだ。
結局は己が"気持ち悪く"見られていないかがとにかくの関心事だ。
改めて思うと、洋服の違いでここまで気分が左右されるというのも異常である。
どれだけ服に依存しているかが分かるし、好きなことを他にも見つけようと思って始めたブログなのだが、やっぱりぼくの中で洋服の占める割合は予想以上に多そうだ。

mezashiquick.hatenablog.jp

ここでも書いたが、ぼくは人と会話をした後に脳内反省会をすることが多い。
道を尋ねられて答えたくらいのライトなものから、親兄弟との会話に至るまで、相手との関係性は問わず発生するイベントだ。


そして、反省会は異性が絡んでくるとさらにややこしくなる。
詳細はリンクを貼った記事を見てほしいのだが、きっとぼくは女性に対するコンプレックスが強いのだろう。
先日のブログでは「どこの馬の骨とも知らん人間の意見を"異性"というだけで信用するな」と書いたが、結局異性への関心が高いことの裏返しなのだと思う。
店員さんはお客さんとしてぼくに接してくれているだけであり、それ以上の感情はない。
もちろんぼくも、常に色恋とかその先のファックのこととかを考えているほど頭蓋骨に精子が詰まっているわけではない。
"人によく見られたい"という感情は必ずしも性欲に直結したものではないのだが、そこに女性へのコンプレックスが絡んできているので何だかわけのわからないことになっている。


もしもぼくがのだめのときの玉木宏だったら、ファッションのテイストも違っていたことだろう。
ちょっと塩を振っただけの、素材の味を生かしたスタイルをしていたと思う。
明日、起床して玉木宏になっていたとして、ぼくの顔が最初から玉木宏の顔で、以前の顔面の記憶を持っているのがぼくだけの世界線だとして。
昨日までと周囲の態度があきらかに違うことに嫌気が差すだろう。
顔が違うだけで世界はここまで自分に優しく、残酷になれるものなのかと厭世観丸出しの人間になることだろう。
結局、人間は配られたカードで勝負するしかないのだ。
ぼくが玉木宏の顔になったら、玉木宏の顔はぼくになるのだろうか。
ごめん玉木宏