聖剣伝説3がリメイクされると聞き、ぼくの頭をよぎったのは装備の変え方が分からなかったから幽霊船のあたりまで初期装備だったとか、攻撃魔法を一切使わずにホークアイ・ケヴィン・リースの物理でごり押ししていたとかの思い出ではなく、マイケルのことだった。
その昔、修学旅行でアメリカにホームステイしたことがある。
学校行事ということもあり、普段からホームステイを受け入れている家庭にお世話になるのだが、派遣先を決めるためにプロフィールを書く必要があった。
当時はゲームが好きだったのでそんなことをプロフィールに書いたことで、ぼくはマイケルと出会った。
マイケルの家は四人家族で、父マイク・母ナンシー・弟ジャミソンという、ベタな名前の一家だ。
地元の学校でそれぞれのホストファミリーと対面したぼくらは、各々が緊張した面持ちでそれぞれの家族に連れられて行った。
ぼくがピザが食べたいとワガママを言ったことでピザ屋で昼食を摂ることになったのだが、ちょっとした座布団くらいのピザが2枚も出てきてしかも残すことにアメリカの洗礼を受けた気になり、ピザもおいしかったので、そりゃ日本は戦争に負けるわと思った。
なんやかんやあってマイケルの部屋に通され、彼が一緒にやろうぜと提案してきたのが聖剣伝説3だった。
ぼくは当時からプレステ2ではなくドリームキャストを購入する先進的な子供だったため、まさかのスーファミの登場に面食らったものの、アメリカで日本のゲームが遊べることにテンションが上がったがひとつ気がかりなことがあった。
RPGをやっていて回復魔法をかけるタイミングが悪く死んでしまうことがあるが、あの手際の悪さは我ながらとにかくイライラするので、聖剣伝説3のように協力プレイができるゲームだとパートナーの不手際にイラついてしまう。
ましてや相手は今日初めて会ったアメリカ人である。
回復魔法に対する考え方も日本人とは違っていて、デリカシーがないというか、多少の犠牲をものともせず進むタイプのプレイスタイルかもしれないし、欧米人だろうと何だろうと回復魔法のタイミングが悪いと確実にイライラする予感があった。
初日からマイケルと険悪な雰囲気になるわけにはいかないし、下手にキレた結果、銃社会の犠牲になりたくもなかったので、回復役をかって出ることにした。
偉そうなことを言うだけあってぼくの手際の良さは大したもので、和やかにつつがなくゲームを進行していった。
マイケルは割と前に出たがるタイプで、これは回復を任せてたら全滅してたかも分からんねと自分の選択に間違いがなかったことに安心し、初対面ならではの堅さもありつつ、ぼくは初めての本格的な異文化交流に浮かれていた。
最初のカニみたいなボスを倒したところでゲームがバグってしまい先に進めなくなったが、そのときの微妙な空気や感情の機微を伝えられる英語力は持ち合わせていなかったので、不完全燃焼のまま一旦お開きとなった。
ちなみに、ボスを倒した後に先に進めなくなるバグは日本語版でもたまに発生していたので、完全にスクウェアさんの怠慢である。
ゲームが終わって一階のキッチンに行くと、ナンシーが手のひらサイズの巨大チョコチップクッキーと牛乳を出してくれ、何から何までアメリカンだなあと風情を感じつつ初日が幕を閉じたのだった。
その後はマイケルと一緒に授業を受けたり、マイケルがぼくの友達に恋をしてしまったりしたのだが、とりあえず聖剣伝説の話が終わったので続きは次回。