公共の秘密基地

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きみのこだわりをみせてよ

こないだ、ユニクロの前を通りがかったら店舗前に行列ができていた。
その日はジル・サンダーとコラボした【+J】の発売日だったのである。
今のジル・サンダーのデザイナーはジル・サンダーさんではないので、ユニクロとコラボしたと言ってもブランド単位の共同ではなく、あくまで元デザイナーであるジル・サンダーさんの個人的なものだ。
実際彼女がどの程度製品に関わっているかも不明なのだが、上記の事実を説明したとしても売上に大した影響はないはずだ。
別に誰が何を着ようとぼくには関係ないのだが、並んでまで買うものだろうかとも思う。
結局、個性個性と言いつつもみんなと同じ枠組みの中でないと安心できないんだろう。


ぼくがたまにウォッチしている雑誌がある。
おばさんのことを頑なに「アラサー女子」と言いたい系雑誌でお馴染み、【CLASSY】だ。
以前にも、この雑誌の名物企画(らしい)【着回しDiary】について紹介したことがある。

mezashiquick.hatenablog.jp

企画自体はファッション誌によくある一ヶ月間の着回しを提案するものなのだが、CLASSYの着回しDiaryは設定が突飛で話題になっているらしい。
詳しくは上記にリンクを貼った以前の記事を読んでもらいたいのだが、ぼくが個人的に結末を注視していたのは10月の着回しストーリーだ。


classy-online.jp

10月の着回しテーマはパリシックなコーディネートで、主役は御年150歳の新米魔女・チエミである。
10月1日に男前と出会って一目惚れをしたチエミは、魔法を使って彼と同じ会社に潜り込むことに成功している。
そこからまあ、人間界と魔女界の慣習の違いや人種(?)のギャップを乗り越えて彼との中を深めていくという物語だ。
彼の魔女に対する偏見や、人間に歩み寄ろうとしないチエミの姿勢から一度は仲違いするものの、周囲のアドバイスからチエミは人間に歩み寄ることを決意するのだ。
一生懸命にスマホの使い方を覚えたりと(魔女界にはスマホがないらしい)、実際に行動にも移している。
最終日である10月31日時点ではチエミは彼と結ばれてはいないものの、「魔女とか人間とかは置いといて二人の気持ちが大切」という結論に至る。

classy-online.jp

なんか、ぼんやりとした結末だなあと思った。


ぼくは以前の記事で、魔女界の掟が話のカギを握るのではと踏んでいた。
私利私欲を捨て、彼のために魔法を使った結果、チエミと彼の仲に決定的な展開が発生すると読んでいたのだ。
と言うのも、人間界では魔法の使用はご法度とされているらしい。
一方でチエミは、のっけから自分のために人間界で魔法をバンバン使用している。
憧れの彼に近づくために同じ職場で働ける魔法を使ったり、彼を叱責している上司が気に食わないからという理由で上司の鼻を伸ばしたりとやりたい放題であった。
「なんか魔女って恐い」と言った彼に対して魔力を爆発させたりもしている。
しかし、人間界での魔法使用については深掘りされることもなく話は進行していく。


10月4日にはチエミの祖母が「人間との恋はご法度」という忠告をしに来るが、魔法の使用については咎められていない。
また、10月14日には母親から「人間に魔法を使ったことが組合にバレたら大変」と注意をされる。
母親が水晶の魔法で監視しているため、事態を知ることになったのではとチエミは推測している。
魔法組合なのか魔女組合なのかは知らないが、魔女のための団体があって水晶魔法という魔女を監視するためのシステムがあるのなら、人間界にいる魔女の監視体制をもっと強化すべきではないかと思う。
人間界にどれほどの魔女がいるのかは定かではないが、人知を超えた「魔法」という力を行使できる魔女だからこそ、力を自覚して節度と責任を持って行動すべきだ。
人間は善人ばかりではないので、魔女を私利私欲のために利用しようとする人が現れないとも限らない。
魔女界の闇に葬られた穢れた歴史を知ってしまい、仙水忍的な思想に目覚めて魔女界に反旗を翻す魔女が現れないとも限らない。


また、10月11日にはチエミが魔女昇格試験のための勉強をしている様子が描かれている。
それによると「受かったら、私もいよいよ一人前の魔女」とのこと。
昇格試験にどれほどの段階が存在し、どの位置にいればどれだけの権限が与えられているのかは明かされていない。
しかし、一人前でないチエミにも自由に人間界を行き来でき、あまつさえ自由に魔法が使えるだけの権限はあるようだ。
一人前でないということは、魔女の力が世界に及ぼす影響や、魔法の強大さについていまいち分かっていない可能性が大きい。


チエミは、10月14日に母親に注意された一件は上司の鼻を長くしたことが原因だと思っているようだ。
実際、上司の鼻を伸ばしたのが10月9日で、母親から連絡があったのが5日後なので、その推測は間違っていないだろう。
しかし、個人的には彼女が魔法を使って意中の彼と同じ会社に勤められるようにしたことのほうが問題だと思っている。
チエミが彼と同じ会社で働くようになり、驚いていたのは彼のみであった。
ということは、以前からチエミが会社にいたように彼を除く全社員の記憶を書き換えたことになる。
彼と出会った次の日に早速働き始めているので、正規の手続きで入社したとは考えにくい。
記憶改ざん魔法の考察については以前の記事でも書いたのだが、これは非常に恐ろしいことである。
他人の記憶を書き換えられる魔法を、効果範囲や対象を指定した上でノーリスク(作中で代償については明言されていなかった)で使用できるのだ。
見ず知らずの人間に悪事の罪をなすりつけることも、下手したら倫理観すら書き換えることだってできるのかもしれない。
魔女の力をもってすれば、正義や愛・友情といった美徳が悪とされ、七つの大罪とされる強欲や嫉妬・怠惰や暴食が善とされるブラックマトリクスのような世界だって実現できる可能性がある。
加えて、母親もチエミの会社勤めについては一切触れずに上司の鼻を伸ばしたことに苦言を呈していることから、もしかしたら記憶の書き換えは魔女にとってそこまで重大な行為ではないのかもしれない。


さらに、チエミが上司の鼻を伸ばした動機は「彼が上司に怒られており、いじめられていると思った」からなのだそうだ。
上司がどれほどの叱責をしていたかはともかく、業務上必要な指導とパワハラを履き違えるあたり、人間界の常識や慣習も学べていないと見える。
ましてや、人の体型を本人の望まないつくりに強制的に変化させるなんて言語道断だ。
異文化を理解することもなく、一時の感情で強大な力を躊躇なく他人に向けるあたり、チエミは魔女というより人として問題がある。
これがチエミの人間性に基づくものなのか、魔女としての教育が行き届いていないからなのかは不明だが、魔女と言っても人格者ばかりではなさそうだ。
このことから、半人前の魔女が人間界に赴くことを規制するとか、魔法の使用に制限を設けることを提案したい。
BLEACH護廷十三隊だって、隊長格が現世に赴くときは現世の霊的なものに不要な影響を及ぼさないよう、霊力を本来の2割に抑制する限定霊印を打ち込まれる。
無秩序かつ無軌道に大きな力を行使できれば、自分の万能感を履き違えてしまい、最終的には魔法の使えない人間を虐げかねない。
魔女たちの価値観や倫理観は彼女たちの暮らす世界では常識的なのかもしれないが、そのまま人間界に持ち込むと軋轢を生みかねないのだ。


同胞の監視体制の甘さや魔女たちの倫理観の欠如から、人間界での魔法の使用は「車が来ていないときに歩行者が横断歩道のない車道を横断する」程度の問題行為なのだろう。
チエミも記憶操作の魔法が得意とは言え、さすがに彼の気持ちが自分に向くように心を操作することはなかったようだ。
もしかしたら魔女界と人間界の往来が一般的になったのがここ最近のことで、法整備が追い付いていないのかもしれない。
"ここ最近"と言っても、魔女の寿命は人間と比べて非常に長そうなので、キリスト教伝来くらいから魔女は人間界に出没していたかもしれないが。


散々言ってきたが、着回しDiaryはあくまでも一ヶ月間のコーディネートの紹介と、女性の自由な生き方を提案するものだと思う。
なので、魔法がどうの魔女界の設定がどうのという指摘は的外れなのだ。
チエミが魔法を使った代償に彼と会えなくなるという以前にした予想は物語としてはアリかもしれないが、着回しDiaryにおいては不要な要素だ。
なぜなら設定はあくまでおまけでしかなく、今回の魔女っ子ストーリーで言いたいことは「お互いの立場や生まれを理解して、自分の可能な範囲で努力して相手に歩み寄っていこうぜ」なのだろう。
ちなみに今回の記事は前後編構成である。
着回しDiary担当編集のインタビューをたまたま見つけたので、次回はそれについて書く予定だ。