公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

【ネタバレ】劇場版『ONE PIECE FILM RED』感想【ネタバレ】

笑いって範囲が狭ければ狭いほど面白いとはよく言ったものである。
最近笑ったのはみうらじゅんさんのエッセイに登場した、『David Bowieがアルバム"Aladdin Sane"でしていた髪型とそっくりなおばさん』の話だった。
元ネタを知っていれば確かにああいう髪型のおばさんいそうだなあとなるので、みうらさんの例えに感心したものだ。
アニメなり漫画なりドラマなりの創作作品を見ていると、過去に自分が取り入れた創作作品の中から上手い例えを抽出したくなる。
今回のONE PIECE映画も何に例えるかなあと考えていて、Vガンダムのエンジェル・ハイロゥみたいだなあと思ったけどもっといい例えがあったかもしれない。
というわけでネタバレありで『ONE PIECE FILM RED』の感想を書いていく。


今回の目玉はやはりシャンクスの娘である『ウタ』と、シャンクスの存在だろう。
ウタはONE PIECE界では知られた歌姫であり、彼女の歌唱パートは歌手のAdoちゃんが担当している。
とにかく歌う場面が多く、確か7曲くらい歌っていたと思うのでまずそこにハマるかどうかが大きいと思う。
(一曲目の"新時代"以外は歌のバックでストーリーも進行するのでそこまでしつこくはない)
物語が進むにつれ、彼女がただのファザコンメンヘラテロリストであることが分かってくる。
彼女が犯した罪との向き合い方、そして企てた計画が「シャンクスに会うため」という目的も含んでいるあたり、大人になりきれなかったウタの未熟さを感じた。
片目や手元が隠れているキャラクターデザインなので本心が読み切れずミステリアスなのも良い。
ただまあ、ウタの目的が明らかになるのは物語中盤くらいだし、ウタにハマらない人からすればさっさとシャンクス出せやと思うかもしれない。


そして劇場版に初登場となるシャンクス。
前作の『STAMPEDE』ではルーキー達や七武海が登場したのだが、四皇は出てこなかった。
加えて前作では『海賊万博』というお祭りが開催されていたことで、今回のウタのライブと被る要素もあったのだが、そこは未登場の四皇をうまいこと使うことで差別化できていたと思う。
ちなみに今回はシャンクスとビッグマムが出演しているが、メインはシャンクスなのでビッグマムの出番は少ない。
シャンクスは劇場版どころか本編でも数えるほどしか登場したことがなく、何なら戦闘シーンもほとんどないのだが、今作ではものすごく動いていた。


実は今回、シャンクスの生い立ちが少し明らかになる。
物語終盤で、シャンクスが幼い頃にロジャーとレイリーに拾われた描写の匂わせがある。
本編ではその程度だったのだが、映画の来場者特典でもらえる40億巻によると、シャンクスはゴッドバレー事件においてロジャーが奪ってきた財宝の中に紛れていた子供(当時1歳)だそうだ。
これはシャンクスが天竜人の末裔である説にかなり信憑性が出てくるし、そうでなくても出生に含みがあることは間違いないだろう。
ちなみにシャンクスはフーシャ村にいた時点で懸賞金が10億4千万ベリーあったらしい。
その男に800万そこらで喧嘩を売ったヒグマさん半端ない。


個人的に、尾田先生ってスリラーバーグあたりからキャラクターデザインやキャラ設定について攻めてきていると思う。
スリラーバーグは今までにない世界観だったし、特にペローナのキャラデザには尾田先生が新しく引き出しに収納したであろうアイディアを感じた。
その後もモネやレベッカやコアラやキャロットなど魅力的な見た目の女性キャラクターが多く登場したことは記憶に新しい。
性格的にも、奥手巨女のしらほし姫、愛され妹属性のシャーロット・ブリュレ、自己中ブラコン(弟)のうるティ、脇と横乳を見せつけてくる自分のエロスに気づいていないボクっ子ヤマトなど、尾田先生の挑戦は枚挙に暇がない。
ウタのデザインには何となくペローナを思わせる部分があってかなり好みだ。


今回の映画はライブパートにかなり力を入れていることもあって、歴代ONE PIECE映画の中でも映画館で見るべき作品に位置する。
ぼくはIMAX上映のスクリーンで見たのだが、冒頭のライブシーンにはかなり引き込まれた。
本編を見てからだと、『新時代』のところどころに散りばめられた後ろ向きなフレーズにも納得がいく。
ウタとシャンクスの再会後の会話もグッとくるものがあったし、あのやりとりにウタがエンジェル・ハイロゥ計画を実行した想いが全て凝縮されていると思う。
彼女は最後に命を落とすものの、やり方は違えど『新時代』を目指すルフィに意思は受け継がれたわけだ。
ルフィがラストで「海賊王におれはなる!!」と再度宣言したのもウタの想いを受け止めてのことだろう。


40億巻にも書いてあったけど、ONE PIECE界の民衆の苦しみってまさに大海賊時代における「闇の部分」だ。
海賊は悪いやつらだし、海軍も世界政府も腐敗しているし、その上にはうんこの塊である天竜人がいる。
ルフィたちは反権力・反体制の自由の象徴として書かれているけど、あくまでも海賊なので通常の常識で考えれば悪いやつらである。
それをヒーローのように見ている人や、海賊に憧れる一般人もいるあたり、ONE PIECE世界がどれだけ理不尽で残酷で歪んでいるかを象徴しているようだ。
ウタはそんな虐げられた人たちのためにエンタメを担い、武力ではなく歌の力を持って立ち上がった。
でもウタも本当は誰かに助けてほしくて、許してほしくて、それがシャンクスだったらいいなあと思っていたことだろう。
彼女は自分が死ぬことで完成する計画を実行したわけだけど、ウタにとっての死は魂の死であって身体が朽ちることではない。
だから死は逃避ではなくて贖罪だったのかもしれない。
本当に逃げたいのなら全部放り出して一人で消えればよかったわけで、民衆を救う必要はなかったわけだから。
自分が必要とされてると気持ちいいし、あっちはこっちの事情を知らなかったとしても許されたって気持ちになるもんね。


では最後に気が付いたことを箇条書きにして終わり。

  • ジンベエのセリフが少なすぎ。

劇場版に初登場のジンベエであるけれど、ほとんど魚人空手の技名しかしゃべってなかった。

  • MVPはブルーノ

コビーと組んでドアドアの能力で麦わらの一味を救出したり、連絡役になったりと大活躍だった。
CP0に移籍したらしい。

  • ナミのおっぱいがなんかエロかった。

服装のせいか作画のせいか、ナミの乳描写に今までにない圧を感じた。

  • ローはもうちょいがんばるべき。

ウタの歌声を封じるためにバルトロメオと連携してバリアを張ってたけど、"凪"を使えば完封できたのでは。

  • シャンクスは「見聞殺し」という能力を持ってるらしい。

覇気の特性の一種?相手の見聞色を封じて未来を見れなくさせるらしい。
ルフィとの戦いフラグか?

  • ウソップとヤソップの再会が熱い。

正確には対面での再会ではないのだけど、ウソップにも父親譲りの見聞色の才があることを予感させた。
STAMPEDEに続き、ウソップはなかなか活躍していた。
ちなみにルフィとシャンクスも再会したわけではない。