公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

8月に読んだ本

8月は読んでいる漫画の新刊が4冊も出たので素敵だった。
基本的にはネタバレなしで書いているが、目次もあるので不安な人はスルー推奨で。
今のうちに言っておくとようやくBLEACH全巻セット(74巻)を購入できたので、9月は小説レビューはないと思う。


↓先月分↓
mezashiquick.hatenablog.jp


↓今回読んだもの↓

ONE PIECE 103

ルフィ…お前、なにそれ…。
となった今回。
今後のストーリーを読まないと何とも言えないけど、ちょっとうーんという気持ちではある。
だけどそれによってあれやこれやの辻褄が合ったりする展開は大好き。
ことあるごとに言うけど、伏線ってのは後からそれだったと気が付くもののことで、初見では素知らぬ顔をしてそこにあるもののことだ。
今巻で明らかになった例のあれは「伏線」ではなく「正体が判明した」だけのことである。
「あの場面のこれとこれが正体を示す伏線になっていた」という言い方なら分かるが、あの展開自体を伏線だと言うのは間違っているのでしょうもない考察系Youtuberは気を付けてほしい。

鍋に弾丸を受けながら 2

『治安の悪い場所の料理は美味い』『グルメなどでは絶対に赴かないエリアでは、20点か5万点のものが食える』という信念のもと、現地で美味しいものを食べる漫画。
原作者の体験を漫画家した"ほぼノンフィクション"の作品だ。
作者の行動力とコミュニケーション力、漫画原作者なら体験に勝るものなしという貪欲な姿勢は相変わらずだ。
本当に聞いたことのない料理ばかり出てくるし、「日本の料理で例えるならこう」「日本人はこういう理由で抵抗があると思う」などと解説もばっちりで読んでいてストレスがない。
作中にあった『優しさや親切に優劣はないが、治安の悪い国で親切心を持ち続けるのは、治安のいい国でのそれと比べると尊いように思う』という言葉が印象に残っている。
人権意識が高いように見えつつもコロナ禍でのアジア人へのヘイトクライムが相次いだため外国人のことは基本的に信用していないが、この作者さんみたいな考えを持てること、そして考えを持つに至った出会いがあったことも尊いと思う。

王様ランキング 14

13巻より第二部に突入した本作。
ボッジは強かった父親の長所を何一つ受け継がず、優秀な弟と比較されてつらい思いをしてきたけれども、それでも彼は王族なので大多数の人と比べれば恵まれている。
剣術の実力に加えて”実家の太さ”という得難い力を持っているわけで、今回の旅の最中もボンボンならではの警戒心薄いムーブをしていた。
生まれてからボッジは自分の弱さとは嫌というほど向き合ってきただろうけど、修行して身に着けた強さと向き合うことはなかったように思う。
カゲとの旅の最中なので師匠であるデスパーさんもいないし、いかに自分自身で課題に気が付いて一皮剥けることができるか。

スノウボールアース 4

主人公は今回、初めて人に拒絶されることと人と喧嘩することを経験したわけだけれども、今回の相手はそれで話が通じたのでなんとかなった。
ところが今後話の通じない相手に出会ったとき、どういう対応をするのかが今後のテーマになってくると思う。
あと、彼の戦う理由が割と自分の中だけで完結しているのも引きこもりならではでよかった。
改修されたユキオのランパード仕様が歪な見た目で好みすぎる。

晩年

この小説には思い入れがあり、読んだこともあるのだけどなぜか家になかったので再度購入した。
昔、久米田康治先生がサンデーで連載していた『勝手に改蔵』というギャグ漫画でポジティブとネガティブについての話があり、その回で本作の冒頭の記述が引用されていたのだ。
長いので要約すると、『自殺しようと思っていたところ、正月に夏物の着物をもらったので夏までは生きていようと思った』という内容なのだが、これを用いて「太宰はポジティブ」という論調で話を展開しており、好きな回だったのでよく覚えている。
上記の記述がある作品"葉"は最後まで読んでみると割とポジティブな文章で締めくくられており、久米田先生の言ってることも正しいのではなかろうか。
"晩年"というタイトルではあるが太宰治のデビュー作品集で、自殺失敗後に書かれた作品であることもあって作品全体の情緒が安定してないように思う。
実験的な作品もあって、若さゆえの試行錯誤している感じも好みだ。
ぼくが太宰治のことが好きなのはなんかごちゃごちゃ理屈をこねているところだけでなく、目の周りが伯父に似ているからというのに最近気が付いた。

告白

明治期に実際にあった事件『河内十人斬り』をテーマにし、「人はなぜ人を殺すのか」に迫る作品。
wikiにもページがある出来事だが、完全なるネタバレになるので閲覧は読了後にするのをお勧めする。
作者の町田康さんの書く文章がすごく好きで今までも何作か読んでいるのだけど、回りくどい言い回しで何でもないことを拡大解釈して長々と綴る屈折した感じがたまらない。
町田さんはこじらせた人間や、社会のメインストリームから外れた人間の鬱屈した感情を書くのが本当にうまい。
主人公であり語り手の城戸熊太郎は過度に思弁的な思考を持っているが、考えをうまく言葉にすることができず言行が一致しないことに悩んでおり、自分は誰にも理解されないのだと諦めていた。
一方で周囲の人間は一見すると思考と言葉が一致しており自分ほど物事を考えているようには見えないため、いつしか自分は良くも悪くも特別な存在なのだと認識するようになる。
熊太郎の考えってすごくよく分かって、街を歩いてたり電車待ってたりするとなんでこいつはこんなとこで止まって導線乱してるんだろうかとか、妙な位置に列を作ってこいつらは馬鹿なのだろうかと思うことがある。
じゃあそいつらが何も考えてなくて自分だけが思慮深い人間なのかと言うとそうではなくて、そいつらにはそいつらなりの行動原理や事情がある。
自分はめっちゃ努力しているけど他人は大したことしてないだろう、大変なのは自分だけだという決めつけがそうさせるのだ。
よくもここまで人間の深淵に迫った作品が書けるものだとただただ尊敬する。
本作も広くお勧めはしたいのだけれどかなり分厚いので、もしも町田さんの作品を読みたいという人がいればデビュー作である『くっすん大黒』を推薦したい。
なんでそんなタイトルなのかを知るためだけに読んでほしい。