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【ネタバレ】2回目の『ONE PIECE FILM RED』感想【ネタバレ】

1回目を見たあともうこれは絶対再度見ねばならぬと思っていて、いつにしよっかなといろいろ調べていた。
すると、8/27の公開分から来場者得点第3弾の「『ONE PIECE』コミックス巻4/4“UTA”」が配布されるらしいので行くことにした。
高めのスクリーンにしたし公開からしばらく経ってるし客入りも落ち着いてるだろと思ったが、公開2日後に行ったときとあまり変わらない席の埋まりっぷりで驚く。
映画って滅多に見ないのだが、本作は映画館の豪華な設備を十分に生かした満足のいく内容であるため可能なら映画館で見ることをおススメする。
今回は2回見た上で気が付いたことと、今作を取り巻く評判について語りたいと思う。
長いのとネタバレ満載なので注意で。


↓1回目感想↓
mezashiquick.hatenablog.jp

本作に対する否定的な意見について

ネットニュースなどで見たのだが、本作は割と賛否あるらしい。
今までの劇場版と比べて話題性があることから様々の便乗記事が多いのもあるが、それにしてもいろいろな声を耳にする。
観客すべてが諸手を挙げて絶賛するような作品などないので賛否あるのは結構だ。
ところがネットニュースやそれに寄せられたコメントを見ているとどうにも的を射ていないものが多かった。
あとでヤフコメの意見を紹介するが、今作に関しては絶賛のコメントにマイナスが付き、酷評する意見にプラスが付く傾向にある。
ヤフコメの年齢層を考えるとおっさんおばさんが主流なわけだが、単純なアンチによるマイナス評価かもしれないので何とも言えない。
基本的に「思ってたのと違う」という感想がメインなのだが、主な意見を紹介していく。

◆Ado歌いすぎ

ウタの歌唱場面が多すぎて辟易したという意見だが、まあこれはある。
冒頭からウタのライブシーンがあり、7曲くらいは本編で歌唱シーンがあるのでウタやAdoちゃんや今までONE PIECEになかったライブ要素にハマるかどうかは大きい。
音楽にフィーチャーするのは今までになかった試みだし、それで評価が分かれるのは仕方がない。
とは言っても歌姫がストーリーのメインであることは明かされてたわけだから、それで見に行って歌に文句言うのってどうかなあと思ってしまう。
最初の”新時代”以外は物語の背景でウタが歌っていたのでそこまでしつこくないと思うし、一番だけ歌ってるのも多かったし。
映画公開真っ最中のため、テレビCMでも新時代、外食でご飯食べてたら有線で新時代、いろんなところでウタの歌を聞くことができる。
曲によって映画の思い出を振り返ることができるし、音楽は繰り返し聞くことで深みを増す。
まあウタのアンチ勢であれば至る所で彼女の歌が流れている現状に発狂するかもしれない。
どの歌の歌詞も彼女の心情を凝縮していて、聞けば聞くほどウタへの感情移入が強くなってたまらない。
もはやウタはぼくの娘じゃないかと錯覚する。
CDも買いました。

ONE PIECE"らしさ"がない

はい出た「らしさ」
君の考えるONE PIECEらしさって何かね。
ワクワクする冒険?強い海賊(敵が海賊でないので不満との声もあった)との手に汗握るバトル?仲間との絆?
冒険なんて『STRONG WORLD』でしかしてないし、『Z』の敵も海賊じゃないけど、面白かったじゃんか。
それとも尾田先生監修以前の劇場版と比べて言っているのだろうか。
短絡的な批判しかできんやつが過去作全部見てるとは思えんのだけど。
『エピソードオブチョッパー』とかワポルの兄でCV.みのもんたとかいう謎の存在が出てきたけどそういうのはいいの?

◆押し売り感が強い

これはぼくが鬼滅に抱いたのと同じ感覚だと思う。
いろんな媒体で特集されたり、普段は何の仕事してんのか分からん三流芸能人がコスプレを披露したり、ジャンプ掲載時には楽しんで読んでいたのだがあの熱狂っぷりでかなり冷めてしまった。
『RED』は広告を大々的に展開しているし、Youtubeにはウタのチャンネルまである。
先日はフジテレビで特番が組まれていたとかで番組内で女子アナがウタのコスプレをしていたらしい。
ぼくはREDは好きだが、そんな番組で出演者がはしゃいでいるのを見たらうわあとなることは間違いない。
芸能人を声優に起用するのも嫌いだ。
流行りものを受け入れられない人や、好きだけど仕事ではしゃいでいるやつらのお祭り感が気に入らん人の気持ちはひねくれ者としては痛いほど共感する。
ぼくも一歩間違えれば逆張り人間っぷりを発揮して憤慨していたことだろう。
まあ押し売りされたと感じるんなら別にお前に向けたものじゃないんだろうしほっとけばいいんじゃない。

◆シャンクス出なさすぎ

これもまあ分かる。
ウタにはまらない人からしたら、さっさとシャンクス出せやと思ったに違いない。
分かるけど、本編でやってないことを劇場版でやるわけにはいかんだろう。
本編ではシャンクスの出番は少なくルフィとも再会してないのに、劇場版でそれをやってはいかんわけだ。
それに、出番の少なさを挽回するかのようにシャンクスが動いていたし、彼の新情報が小出しになったことは非常に意義があったと思う。
フーシャ村にいた時点でのシャンクスの懸賞金が知れたり、覇気の一種"見聞殺し"を有していることが明らかになったり、彼の生い立ちを匂わせる描写があったりし、一部の設定については第一弾来場者特典である40億巻に詳しく書いてある。
これだけでご飯何杯もいけるんだけど、シャンクスの出番のなさを嘆いている人はこれらの要素では満足できなかったのだろうか。
内容に憤慨しすぎて新情報が頭に入ってこなかったのか、頭が悪すぎて匂わせ描写を読み取る力がないのかは定かではないが、どこまでシャンクスに出てきてほしかったのか聞いてみたい。
それよりも本編にガッツリ登場してるのに極端にセリフの少ないジンベエのこと心配しろよ。

◆ライト層に媚びすぎ

これが最も間抜けな意見だと思う。
ONE PIECEは連載25年、単行本103巻、アニメも20年以上続いている超長期コンテンツだ。(2022年8月時点)
途中で離脱した人もいるだろうし、今から見ようと思っても壁が高いと感じてしり込みしている人もいることだろう。
その点、今回のメインはルフィとシャンクス、映画オリジナルのウタなので最近の展開を知らなくてもそれなりに見られる。
さらにはAdoちゃんファンや、話題になった映画は見ておこうという層の動員も見込まれるため、新規層の開拓が期待できる。
ライト層を取り込むことが我慢ならない人の意見をヤフコメで発見したので紹介しておく。

ライト層は一過性の盛り上がりです。
それは、ワンピースの本質である冒険への期待ではなく、Adoという歌手の人気に便乗したものです。
ネタが尽きた故に、歌アニメ化にシフトし、新たなターゲット層を獲得しようという意図が垣間見えます。
エンディングでは「海賊王に俺はなる」というお決まりのフレーズが白々しく響いてました。

ONE PIECEマクロス化したわけでもなし、歌アニメ化にシフトって大げさすぎる。
それに新たなターゲット層を獲得すること自体は何も悪いことではない。
流動性を失ったコンテンツの未来は衰退しかないのだ。
それはONE PIECEであっても同様である。
集英社としてはONE PIECEドラゴンボールのように連載が終了しても皆に愛される作品にしたいのだろうし。
大体お前、ライト層ライト層って偉そうに言ってるけど、おれもお前もみんなも最初はライト層だったろうが。
合わなかったと離れるのもファンになるのも見た人次第なわけだけれども、まずは見てもらわんと話にならんだろうが。


たぶんだけど、こういうやつって劇場版ONE PIECEはSTRONG WORLDしか見てないと思う。
SW以前・以降の映画を見たわけでもなく、SWを劇場版の全てだとして語っているやつだ。
8月に地上波でSWが放送されていたが、あれは視聴者から一番好きなONE PIECE映画を募集した結果なのだそうだ。
正直言ってあれも、「STRONG WORLDが一番好き」というよりは「STRONG WORLDしか見たことない」という結果を反映したのだと思っている。
劇場版初の原作者によるストーリー、ジャンプ本誌でのプロローグ漫画、来場者特典0巻の配布など、話題になる要素が満載だったことに加え、当時は原作もインペルダウンからの頂上戦争あたりで非常に盛り上がりを見せていた。
新たな島での冒険と未知の生物、ロジャーと肩を並べた伝説の男・金獅子のシキ、さらわれた仲間とそれを奪還する麦わらの一味のカッコよさ、王道なストーリーとわくわくする展開はいつ見ても面白く、「らしさ」が詰まっている作品と言えよう。
SWは新規層にアプローチするにはうってつけだったがきっと彼らの多くはその後の映画を見ていないと思うので、結果として「STRONG WORLDが一番好きです!」という層を生み出したのだろう。
ガチのONE PIECEファンにアンケートを取ったら、個人的には『FILM Z』がトップになると思うのだがどうだろうか。
STRONG WORLDが面白くないと言っているわけではない。


上記コメントのような頑迷なファンを見ていると、「中華そば原理主義者」という言葉を思い出す。
とあるラーメン漫画で登場した言葉なのだが、『ラーメンを滅多に食べないが故に無難な選択肢として昔ながらの中華そばを求めるけど、定期的に来て店を支えてくれる客にはなりえない』という人のことだ。
詳しくは昔書いたことがあるので下の記事を読んでもらいたい。

mezashiquick.hatenablog.jp

古き良きONE PIECE像を勝手に創造し、それ以外の要素は認めず、気に入らない新規層を排除する。
他のジャンルで例えるならガンダム宇宙世紀ドラクエはⅢしか認めないとか言う人らのことだ。
『STAMPEDE』見た?アニメ20周年を記念した作品でもあったから、もしアニメ版見てたら刺さる要素がもりもりだったよ。
それと、単行本96巻の質問コーナーで「ナミはどうしてミカンが好きなんですか?」って質問があった。
当時のエピソードを知らないであろう層からのお便りだろうけど、自分らが幼い頃に出会って今も楽しんでいる漫画を今の子たちも読んでるって思うと嬉しいじゃんか。
頑迷な原理主義者はそんな質問に対して「ニワカが」と言うのかもしれんが、尾田先生みたいに「この巻あたりに載ってるからよかったら読んでみてね!」って優しく回答しようや。

2回目を見ての感想

ウタの存在は後付けだけど、それでもナチュラルに設定に組み込めたのは感心した。
シャンクスが名を上げるきっかけ、少年時代のルフィが頼りになる人間を失うのを恐れていたこと、ルフィがやけに音楽家を仲間に入れたがっていたことなど、ウタの存在があったと思ってルフィの過去編を見ると違った視点で楽しめる。
あと、何回見てもウタのキャラデザは素晴らしい。
では最後に気が付いたことを何点か書いて終わりにする。

◆五老星がウタを危険視していた理由
  1. 民衆の支持を得ているから
  2. トットムジカを蘇らせることのできるウタウタの実の能力者だから
  3. フィアーランド家の血筋だから

ここで重要になってくるのは3番なんだけど、五老星はウタがシャンクスの本当の娘だとすればフィアーランド家の血筋だということになるので警戒していたくさい。
シャンクスが天竜人の末裔である説はほぼ確定っぽいのだが、フィアーランド家とはどんな家系だったのだろうか。

◆ウタウタの実強すぎ

歌を聞いた人間を強制的にウタワールドに引きずり込めるまではともかくとして、意識を失った現実世界の身体までウタが操れるというのは強力すぎる。
黄猿や藤虎もウタ対策のヘッドホンを用意していたということは、ウタウタの力は海軍大将クラスにも通用するということ。
あの能力にオンオフはあるのだろうか。
幼少期のウタの歌を聞くといつの間にか眠くなっていたとルフィが言っていたが、幼い頃は力の制御ができなかったが成長するにつれて扱い方を覚えていったのかもしれない。

◆人を見た目で判断してはいけない

どう見てもゴードンさんは黒幕のルックスでCV.津田健次郎なのに、最後まで善人だった。
廃墟となったエレジアで献身的にウタを支えていたり、ウタを止めることができなかった自分を悔いていたりとシャンクスよりも保護者している。
4/4巻には登場人物のキャラクターデザインの変遷が載っているのだが、ウタは初期からかなり練り直されているのに対して、ゴードンさんは最初から割とゴードンさんなのには笑った。
シャンクスがエレジアを滅ぼしたという芝居をノリノリでやっていた彼からは、とにかく人の好さしか感じない。

◆シャンクスは親としてはダメ

シャンクスはウタに真実を告げ、一緒に罪に寄り添ってあげるべきだったと思う。
海賊である自分たちと一緒にいるよりはきちんとした歌手の教育を受けるべきという気持ちは理解できる。
だけど、大好きだった赤髪海賊団のみんなが自分を利用してエレジアを滅ぼしたなんて、まだ子供であったウタが受け止めるにはいくらなんでもしんどすぎる。
ルフィもよくやるけど、自分たちは海賊であって英雄ではないという偽悪的な気持ちがさせた行動のようにも思う。
ウタは大好きなシャンクスたちに裏切られたという気持ちから海賊を憎み、だけど彼らとの楽しかった思い出もあったりして、屈折した幼少期を過ごしたことだろう。
そして彼女はエレジアを滅ぼした原因が自分にあることを知ってしまうのだが、その頃には民衆からの期待や歪んでしまった感情に取り返しがつかず、「逃げたい・救われたい」と考えるようになる。
逃避先の優しい世界としての新時代ライブ、そして一時は憎んだけれどもそれでもやっぱりシャンクスに救ってほしいと思ったウタ。
『世界のつづき』『風のゆくえ』の歌詞や、「会いたくなかったけど会いたかった」と口にしていたウタからは赤髪海賊団への想いを伺い知ることができる。
カラフルなウタワールドに対して現実世界は灰色で雨まで降っていて、その中でひとりキノコを齧っているウタを見ると救われてほしいなと思わざるを得なかった。
シャンクスは海賊だから、ウタの作る新時代にはいないのだろうか。

◆ローのすね毛がボーボーで最高だった

尾田先生はその昔、サンジにすね毛が生えているのは嫌ですというお便りを茶化していたことがある。
また、ゾロの愛刀を擬人化してほしいという刀剣腐女子からと思われるリクエストに対しても、何とも癖のある擬人化を披露していた。
男前の擬人化を期待し、あわよくばそれでオナニーしようと思っていた腐女子からすれば目論見が外れたことだろう。
ぼくは尾田先生の「あくまでも少年漫画」という姿勢を崩さないところが好きだ。
ローは言わずと知れた人気キャラで今回も登場するのだが、しっかりすね毛が書き込まれていたのはナイスである。
あとバルトロメオに特攻服着せたのもナイス。

◆"ルフィ"を演じているルフィ

エンドロール後のCパートで、ウタの姿がフラッシュバックしたルフィは「海賊王におれはなる!」とサニー号の船首でいつものように叫ぶ。
喪に服すじゃないけれども、友達がいなくなったんだからもうちょい神妙になれよと思った人もいるかもしれない。
ところが、ルフィはときたま「みんなが思っているルフィ」を演じることがあるように思う。
それは船長としてみんなを動揺させまいとする心から頼もしく振舞っているのだが、彼も人間なので時にはどっかに不自然さが生まれる。
それが顕著だったのはウォーターセブンでのルフィだ。
メリー号修理のための1億ベリーを奪われて謝罪するウソップに対し、ルフィはメリーとはここで別れることを提案する。
顔色一つ変えずに新しい船について語るルフィであるが、その際に彼が普段なら絶対に言わないであろう「中古」「カタログ」などというワードや次の船の予算感まで混じっている。
直面している問題は圧倒的に強い敵の存在ではなく船がこれ以上進めないという現実的な問題なわけだから、いつものようにルフィが無茶すれば済む問題ではない。
そこでルフィは何とか船長っぽさを演出し、真面目に喋ろうとするのだけれど理論立てて説明することが苦手なため、いつものキャラじゃないルフィになってしまうのだ。
他にもウォーターセブン出港時ウソップが来ないことに対して精一杯の強がりを見せるシーンなどもあるが、尾田先生のキャラクター把握っぷりは本当にすごい。
というわけでRED最後のルフィのセリフは仲間に心配をかけまいとするルフィなりの気遣いと、己を鼓舞するために発せられたものだと思うのだ。