公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

品のない貴族のように

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ケツメイシの【さくら】のMVが16年越しにリメイクされたとのこと。
良作なわけがないのでぼくは絶対に見ない。
見ないで判断できるもんかと思うかもしれないが、見なくてもダメなことは分かるし見たって文句を言うに決まっているから見ない。
一応、このMV用に新たに書き下ろされたストーリーがあるらしく、文章では見たがやっぱりつまらなさそうだったのでやっぱり見ない。
文句を言うと分かってるものをいちいち見に行くなんてどうかしている。
それくらい16年前のぼくらにとってこの曲と映像は思い入れがあるのだ。
当時の青少年男子たちはMVを見ながら「鈴木えみやべえ」と憑りつかれたかのように口にしていた。
ところで昔は「PV」って言ってた気がするんだけどいつから「MV」になったんだろうか。


さくらがヒットしていた当時大学生のぼくは若さ特有の万能感をはき違えていて自信満々だったのだが、大体ここ10年くらいでジジイの金玉の如くすっかりしなびてしまった。
どうしてここまでネガティブになったのかは本筋ではないので割愛するが、当時を知る人間からするとずいぶん変わったとも言われる。
まああれはあれで調子に乗りすぎていたからちょうどいいのかもしれない。
もっとも大きな変化としては、初対面の人間と円滑なコミュニケーションが図れなくなった、いわゆる「人見知り」が強くなったことだ。
そんな人見知りなぼくでも理解できないことがある。
「店員さんに人見知りなやつ」の存在だ。


何人かで食事をしに飲食店に入って注文をしたとする。
全員の注文が終わると店員さんは「以上でよろしいですか?」と言うわけだけれども、それに何もリアクションをしないやつって何をもってやり取りが成立したと思っているんだろうか。
通常であれば、「はい」のひとつくらい店員さんに言うところだろう。
頷くだけでも意思は伝わるのに、それをしないのはものぐさ以前の問題だと思う。
ぼくは店員さんのほうを見て「はい、ありがとうございます」くらいは言うようにしている。
もっと言えば、店員さんがお膳を持ってきたとき、テーブルの上にスペースを作らないやつが信じられない。
お前が卓上のど真ん中に鎮座させているおしぼりと水の入ったグラスをどければ店員さんが食事を置けるのに、頑なに自分で動こうとしないのは何を考えているのだろう。


ぼくは日ごろから、「良いサービスを受けるには良い客であれ」という信条で行動している。
お店の人はお金をもらって働いている以上、最低限のことはしてくれるが、ロボットではなく人間なので感情はある。
腹の立つ客には必要以上に親切にしようとは思わないし、さっさと帰ってほしいしできれば二度と来てほしくない。
ぼくの理想の自分は「冷静かつ誰にでも親切であれ」なので、できるだけ理想に近づけるように行動しているのだ。


コロナ前から一般的になっていたセルフレジであるが、コロナ禍で更に数を増したように思う。
お年寄りならともかく、若いやつが何としてでも有人レジに並ぼうとするのは理解ができない。
ネットでチラッと聞いた話によると、セルフレジが空いているのに頑なに有人レジを使いたい人の中には、「セルフでやるより人にやってもらったほうが得」と考えている人もいるらしい。
「他人の時間を使わせることで相対的に得した」と思っているということだろうか。
列に並ぶ時間を考えるとプラマイゼロか損しているくらいだと思うのだが、アホなのだろうか。
ここまで言っといてなんだが、ぼくもセルフレジが苦手なタイプの人間だ。
うちの近所にあるスーパーに設置されているセルフレジは、仕事ができすぎて逆にバカなのだ。


ルフレジは商品の読み込みは自分でやるわけだが、有人レジと同様に片側に未スキャンの商品を置き、自分でスキャンした商品を横に流していく形式だ。
ぼくは袋詰めのプロではないので、スキャン済の商品を片側に置いた袋に詰める際、どうしてもごにょごにょしてしまう。
片側にスキャンした商品を残した状態で、卵は上のほうに置こうとか、牛乳は土台になってもらうために横にして袋の底に鎮座させようと思考錯誤して袋をごそごそしていると、客の不穏な動きを察知したセルフレジは「先ほど袋から入れたものを取り出してください」と万引きを疑ってくるのだ。
この状態になると客にレジを操作することはできず、セルフレジ係の店員さんに操作をしてもらわないと再度使用することはできない。
店員さんは首に下げた謎のカギを用いてセルフレジを使えるようにしてくれるが、その際にスキャン済みの品物を一瞥して本当に未スキャンの商品が袋詰めされていないかを確認する。
人員のコストを削減するために設置されたセルフレジで店員さんの手を煩わせてしまったことが申し訳ないし、万引きを疑われたぼくも複雑な気持ちになる。


何度かこのセルフレジで失敗をした後、「最初に商品を全てスキャンしてしまう」という解決法を編み出したのはしばらく経ってからのことだ。
ルフレジが万引きを疑ってくるのは、品物をスキャンしている段階に限られる。
そのため、まずは品物をスキャンして片側の台に袋詰めすることなく仮置きする。
すべての商品をスキャンした後【会計】ボタンを押すと支払い方法の選択画面に移行するため、ここで初めて仮置きした商品を袋詰めするのだ。
ルフレジはビジネスライクなやつなので、支払方法選択画面においては自分の領分でないんでとばかりに万引きを見分ける作業を行わない。
ぼくはまだヤングなのでセルフレジに怪しまれることなくスピーディーなスキャンができるが、動作が遅くなってしまうお年寄りはセルフレジにアラートを出される頻度が高くなるだろうし、確かに使うのが億劫になるだろうなあと思う。


話が支離滅裂になってしまったが、冒頭で登場した「店員さんに人見知りな人」と「セルフレジを使わない人」は属性がなんとなく被る気がしている。
どちらも自分で動かずに、人にやってもらうというあたりが似ているからだ。
ここでは便宜上「人見知り」という単語を使用しているが彼らは決して人見知りではなく、単にめんどくさがり屋なだけなのだ。
「仕事だから」という言葉を理由にしてお店の人にすべてやってもらう姿勢はどうも好きではない。
「仕事だから」を理由にしていいのは仕事をしている側であって、サービスを受ける人間が使うと途端に横柄な印象を受ける。
自分の仕事中を考えてみるといい。
他人のちょっとした気遣いが嬉しかったり、何でもない出来事に癒されたりすることはないだろうか。
食事の配膳も商品の読み取りも確かに店員さんの仕事だが、こちらのちょっとした心配りでやりとりがスムーズになるならそっちのほうが好ましいではないか。
別に誰かからの賞賛が欲しいわけではないが、かと言って無私の精神でやっているわけでもなく、自分が気持ちいいからやっていることだ。
こうして善行を積んでいれば、どこかで人知れず見ていてくれたあの頃の鈴木えみが迎えに来てくれるかもしれないのだ。