公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

あんたまたおんなじようなもんこうたんか

今、日本で最も勢いのあるアパレルブランドのひとつに数えられる【AUBERGE(オーベルジュ)】
2021年SSのコレクションもスタートし、認知度も人気度もますます高まってきている。
そんな中、デザイナーの小林さんが自身のyoutubeチャンネルで取り扱い各店舗の別注アイテムを紹介していた。
動画で紹介されているお店にはぼく自身いつもお邪魔しているので、ちょっと反響はどんなもんですかと聞きに行ってみた。
出だしがいつもに比べて広告くさいけど宣伝ではないです。
ぼくみたいなもんに宣伝されるまでもないブランドだし、いつもみたいに好きなものを紹介しつつ物申すコーナーです。


全国ショップ対抗『AUBERGE春の激レア別注祭り』全容編


AUBERGEとの出会いについては本筋ではないので省くが、お店のオーナーさんが「ヤバい人を見つけた」と話してくれたことを今でも覚えている。
デザイナーの小林さんは豊富な経験と知識に基づいた服作りをしているのだが、本質はとても無邪気な人だ。
動画を見てもらえれば分かるが、とにかく楽しそうに洋服の説明をしている。
糸や生地から厳選した服のこだわりは留まることなく、正直何をやっているかは半分も理解できていない。
おそらく誰も思いつかなかったこと、思いついても実行不可能だと思って断念したことに挑戦しているのだろうが、小林さんはそれを自慢したり誇ったりすることをしない。
おもしろいおもちゃを見つけたから、それを誰かに話したくてしょうがない子供のような人なのだ。
やっていることは理解できなくてもこの人に嘘がないことは分かるし、いつも笑顔で楽しそうにしている人を見るとこちらも楽しくなる。
これだけアパレルブランドが溢れている世の中だと、選択の基準としてデザイナーさんの人柄も重要になってくるのだ。


で、上記の動画が公開された直後の週末、動画内で紹介されているお店に行ってきた。
案の定、反響が半端ないらしい。
ぼくは通販で洋服を買わないので(サイズ感が分かっているアイテムをリピートする場合は除く)洋服屋さんにアイテムの問い合わせ連絡をしたことはない。
通販のいいところは現場に行かずとも現物を購入できるところだが、当然ながら届くまでは現物を見ることができない。
試着もできないし、生地の感じを手に取って確かめることもできない。
気に入らなければ返品可能なECサイトもあるらしいが、事業規模の小さな小売店でそれを行う余剰はないのだ。
直接購入と通販それぞれのメリットとデメリットを把握した上で、自分なりの判断基準を確立しておく必要がある。


古着屋さんでバイトをしていた当時のあるあるとして、「お前のお母さんじゃないから知らん」というような問い合わせがある。
よく知ってるお客さんなら普段のファッションや以前に買ったアイテムを踏まえてアドバイスができるし、初見の人でも対面で会話をした感じからある程度好みは察することができる。
だが、初めてかつ電話越しで会話をする人に「これこれこういう服と合いますかね」と聞かれても、お前の貧困なボキャブラリーでは服の特徴が全く伝わってこないし、お前のことを知らんから普段の着こなしも知らん。
あとは古着屋なんでこの手の問い合わせは少なかったが「洗ったら縮みますか」というのも困る。
古着はある程度縮んだ状態なので洗ったところで劇的に小さくなることはないが、新品であれば縮む可能性はあるだろう。
一度洗いをかけてから店頭に出しているお店もあるが、それでも着用と洗濯を繰り返せばもうちょい縮むかもしれないし、乾燥機をガンガン回せばもっと縮むだろう。
正直そこはどこまで許容できるかだと思っている。
こちらが「これだけ縮みます」と説明したところで、実際に縮んだ洋服を見て着ないことには実感として分かりづらい。
どこまでの縮みを許容できるかも人それぞれなので、あんまり気にすんなとも言えない。
普段の着方や洗い方によっては収縮率も前後するだろうし、一概には言えないのだ。
通販で買おうとしているのなら、メリットだけでなくデメリットも多少なりとも許容すべきだ。
対面で購入したって失敗する買い物はあるわけだから。
思ったより大きかったのならお直しを依頼するとか、小さくても着こなしでカバーできることもある。


たぶん、細かいことを気にするタイプの人は懸念事項が本当に多くて買い物を失敗したくない性格なのだと思うけど、「諦める理由が欲しい」人もいる。
価格が高いから・手入れが面倒だから・サイズが合わないからなどなど、いろんな情報を電話口で仕入れては買わない材料を探すのだ。
それで納得して諦めてくれればいいが「だけど気になってるんです…」みたいに歯切れの悪いやつは、こっちから「やめたほうがいいですよ」と言わないと引き下がらない。
煮え切らないやつに「買ったほうが後悔しませんよ」と売りつけるのは簡単だが、やっぱり思ったのと違ったとなるようではお互いに損しかない。
さっきも言ったけど、お前のことは知らんから(電話口で)相談されても回答には限界があるし、一人の問い合わせに長いこと時間を割くリソースもリターンもない。
多少は自分なりに考えを固めてから聞いてほしい。
思い切って買ってみれば道が開けることもあるし、悩んでばかりではいつまで経ってもそのブランドの服はクローゼットに並ばない。
グルメサイトだけでは飲食店の真価は測れないので、実際に入ってみないと分からないのと同じだ。


別に「欲しくなくても思い切って買え」「流行ってるものはクソ」と言ってるわけではない。
「もうちょい自分で考えろ」と言っているのだ。
よく分からない分野や自信のない分野について、有識者のプッシュするものを選択するという心理はよく理解できる。
AUBERGEはいわゆる「バズっている」ブランドなので、雑誌やSNS・ファッション系のyoutuberなどから知った人も多いだろう。
しかし流行っているものや著名人の愛用品が必ずしも正義ではないし、まして洋服のような嗜好品ならなおさら自分の感覚が頼りになる。
それをきっかけに興味を持って調べてみたり見てみたりするのはいいが、調査結果を元に自分にとっていいものかどうかは自分で判断するべきで、どこぞの他人が下した評価を盲目的に信仰するなと言いたい。
判断基準が確立されていない人間が、流行っているからという理由でよく確かめもせずにアイテムを購入することは危険なのだ。
後からやっぱり買うんじゃなかったと後悔したり、失敗を繰り返した挙句に洋服なんて着られればいいという過激派に転向しないとも限らない。
とにかくいろんな服を見たり着たりして、自分の好みや体型に合った洋服を見出すしかない。
服に興味のない人にとってはブランドタグは正常な判断を妨げるノイズかもしれないが、せっかくならひとつのアイテムに詰まった作り手のこだわりを想像して楽しんだほうが愛着も湧く。


AUBERGEには今期の目玉であるモールスキンカバーオール以外にも魅力的なアイテムはたくさんある。
流行り廃りのない洋服が多く、作りもしっかりしているので長らく愛用することができる、大人の男性にも着てほしいブランドだ。
決して安くはないけれどおススメできるブランドである。
今季買ったパッチワークのカバーオールは昨年の受注会でオーダーしたものだが、小林さんのこだわりが細部まで詰まった着ていて気分のいいアイテムだ。
来月は2021AWの受注会もあるし、楽しみで仕方がない。