公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

ミニマリスト警察

断捨離だのミニマリストだのが浸透してきた昨今。
モノを持ちすぎるのは悪いことみたいな風潮になっていやしないだろうか。
物欲にまみれた片づけられないだらしない人間だと言われている気がするのだ。
東日本大震災からのコロナ禍で、モノ消費よりコト消費の流れが加速しているようにも思う。


ぼくはアンチ断捨離ではあるけど、それは生き方の問題であって断捨離やミニマリストを否定しているわけではない。
また、捨てたくても捨てられず、精神衛生上よくないというのならどんどん捨てればいいと思う。
ゴミ屋敷のように自身の健康や地域社会に迷惑をかけているのならともかく、持ち物が多いだけで生き方まで否定される筋合いはない。
モノをたくさん持っていることの何が悪いのだろうか。
分かりやすく散財している人みたいな印象があるし、生活の管理がだらしない気がするのだろう。


ミニマリストのお部屋を写真で見たことがあるが、本当に何もなく病的ですらあった。
モノに縛られず、気に入ったモノや必要なモノだけに囲まれて暮らそうというのが本来の目的なのかもしれないが、彼らはもはやモノを捨てることが目的となっている気がした。
子供のいる家庭のミニマリストも紹介されており、親の生き方に強制的に従わされている子供がかわいそうだった。
子供にいろいろな可能性を提示してあげるのが親の努めだと思うのだが、"モノに縛られない生き方"に子供を縛っていて人生を狭めている気がする。


昔、片づけ方アドバイザーが書いた片づけ方のコツみたいなものを読んだことがある。
アメリカでも話題になっている"もっこり"みたいなあだ名の人ではない)
またいつもの有象無象の記事かと思って斜に構えて読んでおり、【靴や電化製品の空き箱はどんどん捨てましょう】みたいな項を見て、「しょうもないなあ」と思った。
箱を捨てましょうというのは同意だが、捨てない方がいい箱もある。
うちにはあまり電化製品がないのだが、例えば扇風機なんかは箱でしまっておいたほうがホコリもつかないし、特殊な形をしているので立ててしまっておくと意外に邪魔になる。
分解して収納しようにも、細かいパーツがなくなる可能性もある。
すっかり片づけ方アドバイザーにマウントを取ったつもりでいたら、「ただし、扇風機の箱は別です」ときっちり扇風機を名指しして書かれていた。
いくらひねくれていても素直さを片づけたら終わりだと思っているので、そこはシンプルに己を顧みて反省した。


ぼくはひねくれているので、昨今のモノを持たないブームは結局、古いものを捨てて新しいものを買わせようとしているだけだと思っている。
他人に心地よい生き方を無償で教えてやるようないい人がいるわけがなく、持ち物を手放させることでメリットがあるから提案しているのだ。
捨て方や片づけ方を提案している人の肩書は【ミニマリスト】や【シンプリスト】だったりする。
そういう職業があるわけでもなく、国家資格があるわけでもないので、完全なる自称である。
シンプリストを自称するなら生き方もシンプルにしていちいち人前に出てくるなよと思うが、自己顕示欲まではシンプルにできなかったのだろう。
ちなみに"断捨離"は商標登録されているので、やっぱりそういうことである。


本当は好きなモノだけに囲まれて生きていくのが幸せだろうが、人間は社会との関わりの中で大人っぽくあることを強いられる。
いつまでも子供のように生きることも、無秩序に好きなおもちゃを集めて生きることもやろうと思えばできるのだが、"みっともない"だの"いつまでそんなことを"だの言われて折れてしまう人もいる。
自分もかつては愛したモノに囲まれて生きていこうと誓ったにも関わらず、叩く側に回ってしまう人もいる。
過剰にモノを捨ててみたり、やけに労働をしんどいものだとして"給料は我慢料"だと言ってみたりするのは、打算も何もなく、好きなモノを集めて好きなことをして自由に生きている人に対する嫉妬なのかもしれないと思った。


家とは、その人の収入で持てる大きさの箱なのだと聞いたことがある。
箱に収められるモノは限られており、財力に比例して持てるモノも多くなる。
自宅がモノで溢れている人は身の丈に合わない買い物をしており、がんばって箱を大きくするか増え過ぎたモノを処分するしかないのだそうだ。
棚を増やしたり収納を工夫したりというのは箱自体が大きくなったわけではないので、根本的な解決にはならない。
家の現状を見ていると、確かに計画性のないモノの集め方をしているなあと思う。
シンプルな生き方を自称している人は「服を選ぶ時間がもったいないので、私服の制服化をしています」とお決まりのように言う。
服を選ぶのが楽しいんだけど、まあシンプルに生きることを否定はしないし、他人に押し付けたり迷惑をかけたりしないのなら好きなように生きればいいと思う。