公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

ある日の少年とコート その一

ファッションに目覚めるきっかけというか、自分の好みで服を買うようになったのはいつ頃だろう。


母親にお仕着せられた好みを脱し、自分で洋服を選ぶという未開の荒野に挑むような行為であるが、
当時はそんなこと考えてはおらず、反抗期や思春期や発情期がまとめてやってきて、
とにかく親と離れたくて仕方のない時期だったように思う。


ぼくのファッションのルーツは確実に青島(都知事ではない)である。


小学生から中学生にかけて、【踊る大捜査線】にとにかくハマっていた。


何がぼくをあのドラマにのめりこませていたのか分析してみたが、正直見えてこなかった。


単純に面白かったし、思い返せばフジテレビらしくエンタメ色の強いドラマだったように思う。


登場人物もみんなキャラが立っていて魅力的だった。


当時、踊る大捜査線は現実的な刑事ドラマという触れ込みだった。


ヘリコプターからショットガンを撃つ渡哲也もいないし、
どこからか拾ってきたバイクで犯人を追跡する舘ひろし柴田恭兵もいない。


カッコ悪いのがカッコいいというか、フィクションなんだけど妙に世知辛い感じはパトレイバーに通じるものがある。
(事実、踊る大捜査線の演出担当の人だったと思うが、パトレイバーを参考にしていると言っていた。)


織田裕二演じる主人公の青島俊作も、テレビで見る派手な刑事ドラマに憧れて、脱サラして警察になった設定だった。


想像とは違った警察の現実に戸惑いながら、壁にぶつかりつつも前に進んでいく彼の姿は、
当時のぼくにはとにかく眩しく見えた。


彼が着ていたモッズコート(当時はそんな名称すら知らなかった)は型破りな青島を象徴したアイテムで、
ハズシのファッションとは違って、スーツの上に着るのは明らかなミスマッチではあったけど、ぼくの心を捕らえて離さなかった。


その後、【さらば青春の光】という映画でもスーツの上からモッズコートを着用するスタイルを見たが、
青島と違ってスタイリッシュに決まりすぎていたようにも感じた。


彼のコートはあのよれよれ感やもっさり感がいいのだ。


多感な時期であったぼくが、青島コート(当時はこう呼んでいた)を欲しがるのは当然の流れであった。


しかし、ぼくの地元はド田舎であったことと、当時は洋服屋さんに詳しくなかったため、
どこに行けば青島コートを売っているのか全く見当がつかなかったのだ。


大手セレクトショップこそないものの、個店の洋服屋さんはたくさんあるし、何なら
古着屋さんに行けばM-51パーカー(青島コートの正式名称)はいくらでも見つかるが、
幼き日の無知なぼくにはその発想が全くなかった。


次回は青島コートと青島ウォッチを求めて少年が東京に行く話。