公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

霞のような言葉

うちのおじいちゃんの遺言は「女のプリクラは信用するな」だったが、もはやプリクラのみならず自撮りも信用できなくなっている。


若い子の自撮りを見ると、男女関係なく少女漫画の眼みたいになっていて顎が鋭角なのがほとんどだが、あれは本気でベストな見た目だと思ってやっているのだろうか。


男の言うかわいいと女の言うかわいいは違うと言うが、あれは男女ともに不気味だと感じるのが正常な気がする。


そのくせ『ナチュラルメイク』だの『赤ちゃんのような肌』だの、生まれたて感を求めるのも矛盾していて大変だなあと思う。


桑田の息子くらい振り切ってくれればネタとして楽しめるが、半端な加工は美意識も半端でおもしろくない。


先日、帰宅ラッシュで混雑している駅のホームで立ち止まり、2人で自撮りをしている女性たちを見たが、通行の邪魔になっていることに気が付かないとはなんて愚かな生き物だろうかと心底軽蔑した。


周りの迷惑になるようなことをしてまで、みんなに評価してもらうための写真を撮りたいのだろうか。


SNSが一般的になり、みんながどこでも写真を撮るようになったことの弊害だなあと呆れていたが、また別の日に電車内でこんなことがあった。


ぼくの近くに20~30代くらいの男性が立っていたのだが、貧乏揺すりをしたり舌打ちをしたりと、自分がイライラしていることに気付いてほしそうな様子だった。


特に電車が混んでいたわけでも騒がしくしている人がいたわけでもないのに、何をそんなにイラついているのか不思議で、めんどくさそうなことになる前に別の車両に行こうかと思っていた。


そうこうしていたら電車が停まり、男性の降りる駅だったようで降車側のドアに向かっていった。


そして降り際、電車内に向かって
「お前らアホみたいにインスタなんかやりやがって!」
と叫んで降りていった。


『おまえら』とは誰を指しているのか知らないが、電車内でスマホをいじっている人をインスタ中と認識したのか、インスタの話題でも聞いたのかは分からない。


普段からインスタ映えを重視する風潮にうんざりしており、今叫ぼうと思うほど、電車内でインスタ絡みの嫌なことがあったのだろうか。


彼の投じた一石が波紋となり勢いを増して大波になることはなく、誰の心に届くこともないし、覚えているのもぼくぐらいのものだろう。


ただもしかすると、ぼくと同じように共感した人がそのとき他にもいたかもしれない。


名言とは何を言うかではなく、誰が言うかが重要だったりするので、あのイラつきも大御所が口にしていたら世間の風潮も変わっていたかもしれない。


特に誰の心に残ることもなく、口にした次の瞬間には消えている名言は確かに存在して、そういう儚い言葉をイカしてると感じるような感性を持っていたい。


あのときのお兄ちゃん、あなたの言葉はぼくに届いているので、これからも人に迷惑をかけん程度に信念を貫いてくださいませ。