公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

出羽守と言うらしい

以前出張したときに、できれば直帰するように仕事を片付けてほしいと言われていた。


もちろん泊まりになってもいいが、年末の忙しい時期だったこともあり、直帰のほうがありがたいとのことだった。


とはいえ新幹線で2時間くらいかかる場所への出張だったし、気分転換も兼ねて泊まりにしたいなとは企んでいた。


結局は宿泊しての対応になったのだが、仕事のボリュームが思った以上にあったことからホテルに持ち帰っての対応になってしまった。


上司曰く「なぜ指示した手順通りにやらないのだ」ということだったが、そもそも大した説明があったわけではなく、早口で説明されてあとは調べといてくらいのことだった。


きちんと理解できていない方、伝えきれていない方の双方に問題があるのに、なぜ片方だけキレているのか不明だし、そんなに完璧に終わらせたいんならお前も来ればいいのにと思ったものだ。


出張先には他の部署の人も何人か来ており、仕事終わんないっすわみたいな話を聞いてもらっていた。


そのとき初めて知ったのだが、上司は他部署からも関わり合いになりたくない人で割と有名だったらしく、ぼくに対して比較的同情気味だったのがありがたかった。


ホテルに着き、夕食は近くのコンビニで済ませようと出かける支度をしているときに携帯が鳴った。


同じホテルに泊まっている他部署の人からで、
『ホテルの中華料理屋にご飯を食べに行きませんか?』
とのことだった。


正直あんまりお金を使いたくなかったので、コンビニで済ませるつもりの旨を伝えると、
『そんなのはお金がもったいない。ぼくが会社請求で払っておくから食べに行きましょう。』
と強く勧めてくれた。


ぼくが仕事をホテルに持ち帰らないといけないことを知って、気を利かせて誘ってくれたのかと思うと本当に嬉しく、ありがたくご厚意に甘えることにした。


その人は韓国人で、英語と片言の日本語を交えて一生懸命話をしてくれたのも気持ちが伝わってきて感動した。


ぼくも拙い英語を交えて話をし、思いもよらぬ形での愉快な国際交流となった。


彼によると韓国も大変らしく、政権の支持率がボロボロなのをごまかそうと日本に矛先を向けているとか、フェミニストが変に力を持ってしまったせいで、男女が警察沙汰になった場合でも女性の証言が全面的に信用されるとか、興味深い話を聞かせてもらった。


韓国では結婚する際、男の甲斐性として家と車は必ず用意するものということになっているらしく、若者はうんざりしているそうだ。


海外に数か月そこら留学していたくらいでドヤ顔で日本のことを否定する人がいるが(そういう女性に限って二の腕がやけに太いのはなぜだろうと感じていた)、どこの国も外からでは分からない問題をたくさん抱えていて、この世の理想郷なんてところはないのだ。


大した経験もないのに訳知り顔で母国を批判して、自分が国際派か名誉白人にでもなったつもりだのだろうか、気持ちの悪い。


どの国にも一長一短あって、何かを選択するためには何かを捨てたり我慢したりしなければならず、受け入れて生きていくしかないのだ。


無理なら権力を持って国を変えるか、住む所を変えるかしかない。


出生率が下がり続けたり、景気が上向いている実感が感じられなかったりと問題のある日本ではあるけど、ご飯をおごってくれた彼のような素敵な外国人がこの国で働きたいと思ってくれるんだし、ぼくもがんばろうと思う珍しくいい話だった。