公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

6月に読んだ本

別にノルマを決めているわけではないけれど、小説・文芸系なら月に2~3冊は読みたいと思っている。
ページ数にもよるので進行は月によって差があるけど、積んでいる本も随分増えたので何を読むか悩めるのが贅沢で良い。
デカい本棚を購入したので、まだまだ本は追加できそうだ。


↓先月分↓
mezashiquick.hatenablog.jp


↓今回読んだもの↓

破壊神マグちゃん 9 (完結)

 

ついに最終回を迎えたマグちゃん。
ぼくの琴線に触れまくった例の最終回は世間的にも反響が大きかったらしく、帯でも触れられていたしワールドトリガーの葦原先生もコメントを寄せていた。
当時のジャンプが自宅にないので確認できないが、最終回のマグちゃんの表情が変わっていた気がする。
ジャンプGIGAに収録された番外編、単行本書下ろしのエピローグ共にほっこりしつつもどこかもの悲しさを覚えた。
この作品は全編通してほのぼのとしているのだが、ふとしたときに寂寥というか郷愁というか、とにかく切なさを感じることが多く、適切ではないかもしれないがぼくの好きな言葉で言うのなら「滅びの美学」みたいなものを感じた。
不滅の存在である破壊神と寿命のある人間、寂れた田舎の港町、現実の時間と可能な限りリンクした作品内の時間(作者さんもあとがきで語っていた)、それら全ての要素が終わりを予感させるもので、だからこそ美しい。
まあ自分が滅びを待つだけの当事者になったら美しいなんて悠長なこと言ってられんとは思うけど、物語上の話ってことで。
マグちゃんでもあったやりとりなんだけど、人間よりも上位の存在が「人は死ぬから不完全」みたいな極論を振りかざしてくることがある。
夏休みとか長期休暇と同じで、終わりがあるからメリハリを持って日々生きることができるし、今大切にすべき物事を慈しもうと思えるわけだ。
次なる癒し枠として、6/13より連載がスタートした「ルリドラゴン」に期待したい。
表紙がかわいかったし、最新の4話もよかったし(この記事公開時点)、主人公がどことなく命令者ちゃんを連想させるビジュアルでもあった。
マグちゃんへの思いの丈は以前も語っているのでこちらもぜひ。

mezashiquick.hatenablog.jp

ゴールデンカムイ 30(既刊)

最終決戦でキャラとしての深みが増しまくった鶴見中尉が表紙の本巻。
もう最終回間際なんで当たり前かもしれんが、ここまでくると杉元もアシリパさんもお互いを対等な相棒として見ていて、時には矛となり盾となり困難に立ち向かっている様が良い。
今回はバトル展開が多めで、特に杉元の戦闘シーンがお気に入りだ。
彼は柔道経験があるようだし、軍隊にいたから軍事教練で武道的なものはやっていたかもしれないが、土方やチンポ先生のように武道畑の人間というわけではない。
そのため戦闘においては使えるものは全て使った戦い方をするのだが、銀魂の銀さんを彷彿とさせる何でもありで自分が生き残るためだけの我流戦法がカッコいい。
基本的には銃剣を使っているが、最終巻で描かれるアレを使った戦いも良かった。
なんと今回、単行本の帯を藤岡弘、さんが寄せている。
作者さんが依頼をした際、先方から「全話読んでからコメントいたします」と言われたとのことで、コメントだけでなく対応にまで人柄が表れている。
表紙で鶴見中尉と藤岡さんが並んでいる様は圧巻だし、あとなんか帯が太い。
逆に言えば、本を読んでいない人に帯コメントを依頼することもあるし、本を読まずに帯コメントをする人もいるということだ。

虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT- 1~5(既刊)

できるだけ「おもしろい」以外の感想を用いたいと思っているんだけど、一巻を読んだ後「おもしろい」と言わざるを得なかった作品。
核戦争で荒廃した日本から機密文書を見つけ出すために、現地に送り込まれた死刑囚の主人公が奮闘するお話。
主人公は有能でサバイバル能力にも長けているのだが、敵対勢力が輪をかけて強いので主人公自身が無双することはない。
パワーバランスがなかなか絶妙で基本的には逃げの一手だし、主人公が人質に取られたり守られたりする役回りになることが多いのも特徴。
そのため、常に展開に緊張感があるし、いい具合に世紀末サバイバルをしている。
異形のデザインもキメラ感があって好きだし、設定とかよくこんなの思いつくなあと感心する。
ちなみに二巻では作者さんと昔から交友があるらしい、ヒロアカの堀越先生が帯コメントとヒロインのイラストを寄稿している。
堀越先生はケモナーだと思っていたが、本人曰く「ストライクゾーンが広いだけ」らしい。

午後の曳航

13才で中二病の少年・登、その母親で自分を大切に保ちすぎた未亡人の母・房子、いつか漠然とした栄光を手にしたいと思っている船乗り・竜二の三者の物語。
登には5人のお友達がいて、彼らはみんな自分のことを天才だと思っており、大人や教師や社会はゴミ溜めだと考えているという何とも微笑ましい集団を形成している。
子供には自分にしか分からない不可侵の世界があるが、いくら大人びていても親が自分以外に大切なものを作ること、親の中で自分の存在意義が揺らぐことには敏感なのだと感じた。
三島由紀夫の文章はよく「綺麗」と言われることが多く、特に「金閣寺」を読んだ人からこうした感想を聞くことが多い。
金閣寺は未読なのでその感想にはいまいちピンとこなかったのだが、本作では三島由紀夫の比喩や描写の美しさに感心することしきりだった。
帯が解ける音を「蛇の威嚇のような鋭い音」と表現したり、裸の母親の股間「可哀そうな空家」と言ったり、「彼女の乳房に至るなだらかな勾配は、急に傲った形になって」などという身体の描写があったり、勃起した男性器を「つややかな仏塔」と表したり、この表現力を磨くに至った三島由紀夫の人生に興味が湧いた。
登は船乗りの竜二に憧れていたのだけれど、彼が母と夫婦になって海を捨て、凡庸な人間となることに我慢がならなかったため、仲間たちと共謀してある企てを実行する。
行動原理には母親を取られることへの嫉妬もあったと思うが、最初のきっかけが「カッコいい男がカッコ悪くなるのが嫌だから」という理由なのが面白い。
同性愛者であった三島由紀夫の内面が表れているのかなと興味深く読んでいた。

官能小説用語表現辞典

三島由紀夫の本を読んだあと、自宅に積んでいた本の中から次はこれしかねえと手に取った作品。
官能小説で使用された男女の身体描写を一冊にまとめた本。
単に用語を列挙しただけでなく、前後の文章や使用された作品・作者名も載っている。
女性なら陰唇・陰核・陰毛など、男性なら男性器・精液などパーツで細かく目次が分けられている上、オノマトペなんかも載っているから自分に合った表現を見つけることができるぞ。
初見で立ち読みしてインパクトに圧されて買ったのだが、読んでいくうちに気が付いたことがある。
例えば、女性器のことを「寒ブリ」と表現している作品があった。
これだけ見ると単に表現の妙と言えるのだが、作品名に「金沢」とか「女将」などと入っていたことから、地名や登場人物から連想して女性器を寒ブリに例えたのだと思う。
ワードそのものも重要だが、作品の舞台や前後関係にも注目することが官能小説の楽しみ方なのかなと、官能小説未経験ながら思いを馳せていた。
どれだけ舞台設定や登場人物の背景、シチュエーションを工夫しても、官能小説なのだから最終的にやることはセックスである。
やることが決まっているからこそ、官能小説の作者たちは表現を凝らしてセックスの描写に精を出したのだろう。(性行為なだけに)
上記の三島由紀夫の作品で紹介した「空家」表現はこの本でも登場していた。
ちなみに個人的お気に入りは、女性器を例えた「通い馴れた肉の小径」だ。
YouTuberの餅月ひまりさんが本作品を読んだ感想動画も面白いので、こちらもぜひ。


www.youtube.com