公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

人は思い出がないと生きていけないが、思い出だけでも生きていけない

アニメや漫画など二次元作品の実写化は物議を醸しがちである。
ぶっ飛んだキャラクター・舞台の設定やアニメ的表現を実写でやるとどうにもチープになるし、CGなどの特殊効果に湯水のようにお金を使うこともできないから、コスプレAVのレベルを脱しない。
結局、自分たちでお話を作ることができないから、既に成功したコンテンツに頼るしかないのだろう。
その作品のファンや、怖いもの見たさのお客さんが多少は期待できるので製作費くらいは回収できるのかもしれないが、基本的にはしょんぼりとした出来になる。
ハリウッドではONE PIECEの実写化が進んでいるし、鬼滅の刃も次は実写ではという声もある。
アメコミの実写化くらいお金をかければまた違うのかもしれないが、正直日本では二次元作品の実写化は賛否の否が大きいように思う。


ぼくは子供の頃、堂本剛版・金田一少年の事件簿を見て育ったのだが、あれは当時の原作ファンからどのように受け止められていたのだろう。
他にも実写化で成功した(とぼくが思っている)作品としては、【のだめカンタービレ】【デスノート】などがある。
るろ剣も剣戟アクションとして見れば面白いという話を聞いた。
そして、二次元作品を実写化したドラマで何よりも面白く、ぼくが影響を受けまくった作品と言えば【池袋ウエストゲートパーク】である。


iwgp-anime.com

前にも書いたことがあるが、IWGPは現在アニメ版が放送中だ。
内容は石田衣良さんの原作小説準拠になっている。
そのため、めんどくせえを連呼するマコトも、クレイジーでカリスマなタカシも、息子の息子をインポ呼ばわりするかーちゃんも登場しない。
ぼくは小説も読んでいるので、アニメはアニメで毎週楽しみにしている。

www.j-cast.com

しかし、この記事を見るとどうも不評であるようだ。
「ドラマ版のイメージが強すぎて感情移入できない」「長瀬智也窪塚洋介の印象が鮮烈すぎる」などの声があるらしい。
確かにあのドラマはシナリオ・役者・時代背景どれを取っても完璧である。
キャストも今見ると非常に豪華で、みんな役にバッチリはまっていた。
主演の長瀬智也窪塚洋介のカッコ良さたるや長々と述べるまでもなく、原作のイメージを完全に喰って「ドラマ版の池袋ウエストゲートパーク」をこれでもかというくらいに見せつけていた。


ぼくのように多感な時期にドラマ版IWGPに触れた人間であれば、今でも強烈に印象が残っていることだろう。
だからこそ、下手にドラマ版準拠でアニメ化するとそれはそれで文句が出るのは間違いない。
彼らにとっては原作小説やアニメよりドラマのイメージが強い以上、同じ土俵で戦っても勝負にならない。
「実写と違ってチープ」「ドラマのいいところを活かせていない」などの意見が出るに決まっている。
「子供だったころドラマで見たIWGPとは全然違う」って当たり前だろうが。
原作小説の存在を知らない・見ていないやつが、偉そうに的外れなレビューをしているのは失笑ものだ。
主題歌が【忘却の空】じゃないなんて言っている意見もあるようだが、変にドラマを意識した作りにするのは寒くなるのが目に見えている。
どうやったって文句が出るのなら、原作準拠にしてドラマ版とは全く違ったIWGPを見てほしいという制作側の意図を汲みたい。


ddnavi.com

たまたま見つけたこのインタビュー記事を興味深く読んでいた。
記事内ではキングを演じた窪塚洋介が以下のように語っている。

タカシ(キング)っていう男は寡黙で……何だったら裸に革ジャン、裸に毛皮のコートを着てるみたいなキャラクターなわけですよ。「いやいや、俺にはできないだろ」っていうのがまず正直な感想としてあったんです。これをそのままやってしまうと、実写の場合はあまりにもリアリティがなさすぎて、共演者の人たちにまで迷惑をかけてしまう、僕の芝居のせいでヤケドをさせてしまうんじゃないかって。でも、僕が実際に演じたみたいにブッ飛んだ感じのキャラクターにすれば、成立させることができるだろうという直感があって。

だから観た人に何を言われようとも、今回のアニメ版は正統派の『IWGP』なんだよ、ってことなんじゃないですかね。僕がやったことでパラレル・ワールド版になってしまったドラマとは違うよっていう(笑)。

発言の都合のいいところだけ切り取るのはあまり好きではないが、ドラマ版キングのキャラは窪塚くんの提言によるものだなんて知らなかった。
やはりキングは彼の演技あってこそのものであって、あれをアニメで表現するのは確実に嘘くさくなる。
原作小説を読んだ人間からすれば、なるほど、キングって本来はこんなに冷徹でクレバーなのかと再認識できて面白い。
実際にAmazon Prime Videoのレビューも見に行ってみたが、思い出に囚われたドラマ版原理主義者の頭の固い意見ばかりで嫌になった。
ドラマのイメージが強すぎるというのは仕方のないことだが、それをアニメ版を叩く材料として用いるのは間違っている。なぜなら別物だからだ。
「マコトが好きなのはマヨネーズ」「タカシを銭湯に帰してあげて」って、異なるものだということを理解していない間抜けぶりも甚だしい。
キャラクターやストーリーの全く違うドラマ版とアニメ版を比較することには何の意味もないのに、化石ジジイにはそれが分からないのだ。
加藤あいでオナニーでもしているといい。


ぼくは池袋という土地には行ったことがないが、ドラマが放送されていた時代と今とでは池袋の治安や雰囲気は全然違うのでは。
原作も時間がきちんと流れていて、執筆された当時の社会問題や流行を作品のテーマに盛り込んでいる。
空気がクリーンになった現在の池袋をアニメや今の原作では描いているのに、カラーギャングが跋扈し若者が厚底ブーツを履いてPHSを持っていた時代をいつまで引きずっているのだろう。
ドラマでは池袋をものすごく治安の悪い土地のように扱っていたし、今あの感じをアニメ化したら確実に苦情がくると思う。
逆に、原作とイメージが違い過ぎてドラマを見ていない人だっているし、原作ファンからすればドラマ版だって相当非常識だ。


散々言ってきたが、アニメの出来がどうかと聞かれればまあそこそこだろうか。
お話のテンポや脚本がいまいちだし、作画もあんまりだ。
でも、作品自体は好きなので最後まで見ることにする。
小説でしか描かれていないストーリーがアニメになるとどう映えるのかとても楽しみだ。


良くも悪くも実写化は話題になるけれど、アニメより実写がここまで評価されているのは池袋ウエストゲートパークくらいではないだろうか。
ぼくらが幼い頃見ていたドラマも、何十年後かにリメイクされたりアニメになったりするかもしれない。
タカとユージや古畑任三郎や、青島俊作世にも奇妙な物語タモリさんなんかは遠い将来誰が演じるのだろう。
そのときに「こんなの○○じゃない!」と駄々をこねて暴れない、過去に囚われていないジジイでありたいけど、たぶんそうはならないだろうなと既に諦めている。