都合のいい身体

【四苦八苦】という仏教由来の言葉がある。
この言葉には字面を裏切らない陰鬱な語源があり(仏教では陰鬱だけではない解釈があるかもしれないが)、なかなか興味深い。
根本的な四つの【四苦】にさらに生きる上での【四苦】を足して【四苦八苦】となるのだ。

  • 生苦:生まれることに起因する苦しみ。
  • 老苦:老いていくことに起因する苦しみ。体力、気力など全てが衰退していき自由が利かなくなる。
  • 病苦:様々な病気があり、痛みや苦しみに悩まされる仏教問題。
  • 死苦:死ぬことへの恐怖、その先の不安などの自覚。
  • 愛別離苦(あいべつりく):愛する者と別離すること。
  • 怨憎会苦(おんぞうえく):怨み憎んでいる者に会うこと。
  • 求不得苦(ぐふとくく):求める物が得られないこと。
  • 五蘊盛苦(ごうんじょうく):五蘊(人間の肉体と精神)が思うがままにならないこと。


シャワーを浴びていたら、右耳の下あたりがやたらと腫れていることに気が付いた。
鏡で見てみると明らかに顔がアシンメトリーで、右側の輪郭だけ見ると有村架純みたいになっている。
何もしないのは何となく不安なので、プラシーボ効果を期待して葛根湯を飲んで寝てみることにした。
翌朝、正面から見てもハッキリと分かるくらい顔の右側が腫れている。
ますます有村架純に近づいていくことに恐怖したぼくは、病院に行くことを決心したのである。


「顔 片側 腫れる」で検索すると、どうも耳鼻淫行咽喉科系の病院にかかるといいらしい。
一旦出勤し、職場近くの耳鼻科に電話して早速お世話になることになった。
病名は忘れたのだが、「唾液を作る器官にばい菌が侵入して腫れている」という非常に恐ろしい病魔にぼくの身体は蝕まれているらしい。
正直そんなに珍しい症状ではないこと、2~3日で腫れは引くことなどを説明されたが、自分自身も自分の周りでもそんな症状を発症した人を見たことがない。
3日分のお薬を処方してもらい、唯一の注意点である「すっぱいものを食べないように」というほんわかとした対策を教えられてその日は終わった。


放っておいても問題のない症状ではという印象を受けたが、顔面周りが不調になったことはないので(容姿が悪いとかではなく)、完全にビビッてしまって病院に行くことにした。
ぼくの人生はやらねばならないことをギリギリまで先延ばしにして取り返しがつかなくなることの繰り返しなので、せめて自分の身体周りのことは早めに対処しておこうと思ったのだ。


年を取ると、「身体のどこかは必ず不調」という状態が続くらしい。
今日調子のよかった箇所も明日には悪くなったり、ずっと不調だった箇所が急に良くなったりするのだろう。
今まで自由自在に自分の意志で動かせていた身体が思うままにならないことは、非常にもどかしいに違いない。
神様も人間の耐用年数をせいぜい50年と見積もって設計したのだろうが、予想に反してその倍近くも生きようとする人類に必死さを感じているかもしれない。


また、病状に合わせた適切な病院選びって意外と難しいなと思った。
現代はインターネットで何でも調べられるが、もし何も情報を得る手段がなかった場合、顔周りの不調をどこに相談したらいいのか分からない。
今回はたまたま「顔の半分が有村架純になっている」という明確かつ言語化しやすい症状だったけれど、ネットでどう検索したらいいのか要領を得ない体調不良もあるだろう。
学校が社会に出るための教育機関だと言うのなら、病院の選び方とかコピー機の使い方とか収入印紙の買い方とか、もっと実用性のあることを教えてほしいものである。


ちなみに、ぼくは「からだ」という文字をPCで変換するときは「体」ではなく「身体」とするようにしている。
特に明確なこだわりはないけれど、何となく「身体」の方がいやらしい感じがしませんか。