公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

立ち向かってもいいし諦めてもいい

日本が一億総中流社会なんて言われたのは大昔の話だ。
コロナ禍でさらに浮き彫りになったように、日本は格差と分断バリバリの社会である。
職場が完全にリモートになった人、リモートになったのは正社員だけで派遣には関係ないという人、蓄えがないので非常事態宣言下であっても働かなければならない人、自粛要請を無視して遊びに行く人。
お店を閉めざるを得なくなった人、逆に売り上げが伸びた人。
そして、格差や分断は経済だけの話ではない。
男女のマッチングにおいても、勝者と敗者が鮮明すぎるほど分かれている。


もはや、恋愛や結婚というものは一部の恵まれた人間のための娯楽になっている。
一人の男性が複数の女性と同時並行で関係を持つ一方で、彼女いない歴=年齢の男性も星の数ほど存在する。
40点の女性であっても90点の男性とセックスすることは可能だが、その逆は滅多にない。


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この人も、紛れもなく恋愛戦線においては欧米列強並みの勝利者である。
京大生(若さを思う存分振り回せる女子大生)かつ、自分の学費のためにホステスをするバイタリティと容姿がある時点で、大体の人間にマウントを取ることができる。
彼女はnoteでの連載が好評だったことを受け、男性向けの恋愛指南書を出版したらしく、それにまつわるインタビューを受けている。

私自身、これまでたくさんの恋愛本を読んできたのですが、そもそも、女性が書いた男性向けの恋愛本って少ないんです。男性が書いた男性向けの本は多いんですが、男性目線の本には、女性はそう思わないだろうな、と感じるところがけっこうあった。そういう点を、この本には盛り込んでいます。

インタビューを見て思うのだが、この人の言う「男性」の中にいわゆる「非モテ」は含まれていない。
初対面の人間に不快な思いをさせないだけの清潔感があり、友人もほどほどにいる。
挙動不審にならずに女性とコミュニケーションを取ることができ、彼女が何人かいたこともある。
しかし、女性に告白すると「○○くんはいい人なんだけど…」で振られることも多く、人間としてもちんこの皮的にも一皮剥けたいと思っている。
そんな人向けに書かれた本であり、恋愛市場に上がることもない人はハナから見落とされている。
noteの連載もこの本も読んでないのでケチをつけるのは間違っているかもしれないが、世の中にある恋愛教則本というのは大抵がそんなのだ。


彼女の言うところの「恋愛偏差値」を上げる機会にすら恵まれない人がこの世にはたくさんいる。
「自分の顔だの経済力だのに言い訳してないで、とにかく行動してみろ」という意見もあるだろう。
そういう人は元から何かを持っていたか、たまたま努力できる環境にあっただけのことだ。
そして、たまたま努力できない環境にいる人もいる。
それを自己責任だの甘えだので切り捨てるのが、今の社会なのだ。
恋愛ができる境遇にある人は、自分の努力だけでパートナーを勝ち得たと思っているだろう。
だから、非モテに対しても努力次第で恋愛偏差値を上げることができると言いたいのだ。
しかし、その人の出した成果というのは自分がやることをやり、周囲の様々なことが作用した結果にすぎない。
たまたま自己肯定感の高い育ち方をして、他人に蔑まれない程度の容姿がたまたまあり、恋愛偏差値を上げられる環境にたまたま居たに過ぎない。
経験を積むための土俵にすら立てない人間だってこの世には大勢いるのだ。
他人の事情を慮ることもなく、むやみやたらに努力を押し付け、自分の成果は自分一人で達成したものだと驕り、行動できないのは甘えだとする人間は全員間違っている。
この世には、自分ではどうしようもできないことがたくさんある。
お前はどれだけ自分が大好きなのか知らんが、せめてもっと謙虚であれ。


「恋愛」を「勉強」に置き換えてみれば分かりやすいと思う。
幼稚園からお受験をするような、教育にお金と時間をきっちりかけてもらえる子供がいる一方、机に向かって勉強する習慣をいつまで経っても身に着けられない子供もいる。
大学に進学するという選択肢すらなく、高校を卒業すれば働くのが当たり前だと幼い頃から言われ続けている子供もいる。
地域や学校によっては、休み時間に本を読んでいるだけでガリ勉扱いされてからかわれることもあるそうだ。
たまたま勉強ができる環境にいた子が、学力を積み重ねる機会にたまたま恵まれなかった子に対して「甘え」と言うのは正しいことだろうか。


京大生の子は著書の中で非モテを否定しているわけでもないだろうし、別に恋愛戦線にいない人向けに本を書けと求めているわけでもない。
世の中にある恋愛教本とは恋愛をする気のある人のためのものであって、残酷なまでにターゲットが分かりやすいのだ。
ぼくもこの子を叩くつもりは毛頭ない。
非モテに大切なのは自己肯定感であるけど、それは恋愛教本の範疇ではないし、何なら無理して高めることでもない。
かわいい子は無限にかわいいと言われ続けるし、女癖が悪くても「ドキドキするから」という理由でモテまくる男もいる。
人生は配られたカードで勝負するしかないけれど、ぼくは博愛主義者ではないので、どこぞの他人の幸せを願うほどハートフルではない。
自分や家族、友人たちが健やかでいてくれればそれでいいし、冷たいと言われても知らん。

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