公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

ちんぴらのこーひーやさん

先日、ずっと気になっていたコーヒー屋さんに行ってみることにした。
そこは座席が特徴的なお店で、ぼくの嫌いな言い方をすると「映える」スポットだ。
そのため、写真を撮りたいだけのコーヒーの味も分からんような有象無象で混み合うので、行くのを避けていた。
不謹慎ではあるがこの機会くらいしかゆっくりできないだろうと思い、ウキウキで向かった。


到着したお店は前評判通りのオシャレなお店で、表通りに広々としたカウンターが面している作りだった。
天気がよかったためか普段は扉になっているであろう部分を取り払っており、開放感のある門構えになっていた。
カウンターの前のベンチには近所の人と思われるおばあちゃんが座っており、お店のお姉さんと会話をしていた。
1階で注文して2階の座席で飲むもよし、おばあちゃんみたいに店員さんと会話しつつ、ベンチで飲むもよしといったスタイルのようだ。
おばあちゃんとお店の人に軽く会釈をし、カウンターに向かい注文を決めていると、2階から足音がして誰かが降りてきた。


姿を現したのは、昨年くらいに常磐道であおり運転をして逮捕された容疑者に顔や服装がそっくりの男性と、美輪明宏のパチモンのような髪色をした清潔感のない女性だった。
二人とも40代から50代くらいで、年齢に合わない若作りと、人体の音量調節機能が壊れているとしか思えないほど大きな声で喋っていた。
男性の方は2階から降りてくると、「おねえちゃん、めっちゃコーヒーおいしかったわ!」とタメ口かつデカい関西弁で店員さんに話しかけていた。
見た目からしてぼくの受け付けないタイプであったが、初対面の人間にタメ口を使う時点で相容れない人種であることを再認識した。
次に、ベンチに座っていたおばあちゃんに向かって、「ここのコーヒーおいしいなあおばあちゃん!」と、期待を裏切らないガサツっぷりと、コミュニケーション能力を履き違えた無遠慮っぷりを発揮していた。
こういう人を評するに「悪い人ではないだろう」という文言が付け加えられるだろうが、良かろうが悪かろうが生理的に無理な人はいる。
というかあの見た目で悪くないわけはない。
ああいう下品で声がデカくてガキのまま子供になったような湘南乃風がびゅんびゅん吹いている人はとりあえず厳しい。
というかやっぱり初対面の人間にタメ口はおかしい。


二人組とおばあちゃんがが帰り、注文したコーヒーが淹れられるのを待っていると、次のお客さんが来た。
まずお店に入って来たのは、ピッタリとしたニットワンピースを着た背の高い女性で、貧乳だったがエロかった。
後から来た連れの男性はサングラスをかけ、白のTシャツを着て、半袖から覗く腕にはタトゥーが彫られていた。
二人とも20代くらいで、常連のようで店員さんと親しげに話していた。
先ほどのお客さんといい、この二人組といい、「こんな感じの客層ね」となんか興ざめになってしまったので、もうこの店に行くことはないと思う。
コーヒーは美味しかったしおやつも充実しており、値段も高くはなかったが、あのレベルであれば他にもある。
確かに2階の座席は素敵な空間で、先客が1名だけだったのでゆっくり読書ができた。
しかし、時たま下の階から二人組と店員さんとの会話が聞こえてきて、アングラな二人組の姿がチラついてしまって集中できなかった。


いつもぼくが苦手な感じのお客さんがいるわけではなく、多くは最初にいたおばあちゃんのような客層なのかもしれない。
チンピラに迷惑をかけられたわけでも、これから迷惑をかけられる予定があるわけでもない。
だが、ぼくの中で「ああいう人が集う店」のレッテルが貼られてしまい、空間や雰囲気込みで楽しむコーヒー屋さんが損なわれる気がしたのだ。
チンピラと親しげに会話をしていた店員さんは一見すると非チンピラに見えたが、ああいうお客さんに刺さる何かが店員さんにもあるのだろう。
逆にぼくがチンピラであれば、あの客層も心地いいと感じたことだろう。
これでコーヒーがものすごく美味しかったら通うところだが、普通だったので無理して行くほどでもない。
もしかしたらあのおばあちゃんも、現役時代は【笑う女豹】の異名で畏怖された凄腕の傭兵かもしれない。


いつものお店が居心地がいいのでさぼりがちになるが、新しいお店を開拓することも続けようと思っている。
たくさんのお店を訪ねた結果、今通っているコーヒー屋さんも発見できたのだ。
マスターがコロナで客足がいまいちだと言っていたので、しばらくはこちらで飲食することで応援していきたい。