公共の秘密基地

好きなものも嫌いなものもたくさんある

一旦、隣の芝にしてみる

浮気やら不倫やらの体験談の中で、妻の不倫に気が付いた夫が、急に妻のことが魅力的に見えるようになるという話を何度か聞いたことがある。
ぼくには経験がないことなので、どういう理屈でそういう心情になるのか理解ができなかった。
長年パートナーとして暮らしてきた夫に、女性として見られなくなったことにコンプレックスを感じた妻が、自分のことを女性として求めてくれる相手を見つけ、生活に色気が混じる。
妻は不倫相手のために綺麗になろうと努力し、急に女を取り戻した妻の姿に夫は魅力を感じるのだという解説もあるらしいが、いまいちピンとこなかった。
先日とある本で読んだ内容が、目から鱗で非常に腑に落ちたので、ひとつ賢くなった気分がしている。


ぼくはリリー・フランキーさんのファンで、彼の著書はとりあえず読むようにしている。
リリー・フランキーの人生相談】という本に、不倫をした妻がなぜ魅力的に見えるのかリリーさんなりの見解が書かれていた。
タイトル通り、リリーさんが様々な人のお悩み相談に乗る本なのだが、子供が生まれてから奥さんとセックスレスという男性からの相談回でのこと。

奥さんが他人だとして、普通に出会い系サイトで奥さんが来たら、A男さんは「おっ、当たりだ!」って思うでしょ?
アイドルになった女のコの男兄弟は、アイドルになる前の妹には「お前、ウゼえんだよ」とか言ってたのに、アイドルになった瞬間から妹をチヤホヤしだすことってすごく多いんですよ。それは自分の妹の外部的な価値を知った瞬間に、家の中がお宝の山だってことに気がつくからなんですね。


この解説は非常に納得した。
特に"外部的な価値"という言葉は確かにその通りだなと思った。
他人の持ち物が欲しくなるみたいなもので、自分以外の誰かから需要があると分かると、途端にいいもののように思えてくるあれだ。
妻が昔、いくらモテていようと、今の妻を知っているのは夫だけだ。
家庭以外の妻を知る機会もないし、ましてや子育て真っ最中であれば妻は家庭外での時間を持つこともできないだろう。
言ってみれば本当に限られた社会としか接していないわけで、夫婦の役割をお互いにこなしているとは言え、仕事をしている夫には理解できないくらい妻は狭い世界で暮らしているのだ。
そんな生活だから、妻自身も自分の客観的な魅力を知ることはないし、夫も妻がいるのが当然だと思っているから、そもそも価値がどうのという発想に至らないのだろう。


リリーさんはこうも言っていた。

このままだと、いちばん奥さんとセックスしたくなる日は、奥さんが浮気してるって知った日ですよ。


月並みな言い方だが、失って初めて大切なものだったと気付くのだ。
"外部的な価値"という発想には至らなくても、自分の妻が魅力的だったと本能で理解するのだろう。
皮肉にも妻が他人とセックスすることで、客観的に妻の魅力を理解し、今更になって惜しくなる。
他人の物差しに従わず、自分の中で揺るぎない価値観があれば、いつまでも妻が素敵だと思えるのかもしれない。
でも、現実としてそれは難しいのだろう。
日本人は外国人に比べて愛情表現が下手だと言うが、外国人が離婚していないかというと否なので、一つ屋根の下で暮らすというのは愛情以外の感情が大きくなりすぎて、本来あったはずの愛だの恋だのが隠れてしまうのだと思う。(無くなるわけではない)
食べ物でも洋服でも、本でも音楽でも、同じものをずっと好きでい続けるのはしんどいこともある。
『飽きてきたんじゃないか』『好きでいなくちゃ』と思ってしまうのはもっとツラい。
モノと違って妻は人間なので変化するし、こちらが何かを与えたり、逆に与えられたりする。
その変化を楽しもうにも、長い長い夫婦生活の中では日常に埋もれて見えづらくなってしまうのだろうか、知らんけど。


学生時代、性獣のようだった女友達が、子供を生んでからすっかりレスだと聞いた。
ぼくのようにパートナーのいない人間からすれば、何とももったいない話である。
没交渉を解消するには不貞行為よりも変態的なセックスがいいと思うのだが、事はぼくのようにデリケートな童貞メンタルが思うほど単純ではないのかもしれない。